2019 Fiscal Year Research-status Report
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19K16136
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
樫尾 宗志朗 東京大学, 大学院薬学系研究科(薬学部), 助教 (40823307)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 組織修復 / 組織間相互作用 / トリプトファン代謝 / キヌレニン / ショウジョウバエ |
Outline of Annual Research Achievements |
組織再生は、欠損した組織を回復させる医学・生物学における重要な現象の一つである。これまで行われてきた再生研究により様々な分子メカニズムが解明されてきたが、既存の研究は傷害部位における組織自律的な分子メカニズムの解析が中心であった。近年の研究により、組織再生を離れた組織が遠隔的に制御するメカニズムが存在することが明らかになってきた。しかしながら、組織間を媒介する因子やその受容システムの包括的な理解には未だ至っていない。 これまでの自身の研究において、ショウジョウバエ翅成虫原基の修復初期における体液組成のメタボローム解析を行い、修復時の体内環境の変動を網羅的に調べた。その結果、必須アミノ酸の一種であるトリプトファンの代謝に変化が見られた。トリプトファンの多くは脂肪体(哺乳類の肝臓や白色脂肪組織に相当する器官)でキヌレニンに代謝されていることから代謝酵素の発現を調べたところ、修復初期に脂肪体で発現が上昇していることが判明した。そこで脂肪組織特異的に代謝酵素を抑制したところ、成虫原基の組織修復が阻害されることを発見した。特に、下流代謝産物のキヌレン酸が修復に寄与する事を示唆するデータが得られた。 本研究では、組織再生を制御する体内環境受容システムの解明を目指し、ショウジョウバエ幼虫を用いた組織再生の系と遺伝学を組み合わせた機能解析を行った。修復組織のGPCRに着目してRNAiスクリーニングを行った結果、組織修復に寄与する複数の候補GPCRが得られた。これらの候補GPCRを培養細胞で発現させbinding assayを行なったところ、キヌレン酸がアロステリックに応答を増幅することが新たに示唆された。本研究によって明らかになったGPCRの組織再生への寄与から、体内環境によって規定される組織再生能の解明につながることが期待される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本研究では、脂肪体や脳といった分泌組織から、どのようなシグナルが伝達されて成虫原基の修復に寄与するか解明することを目的としている。これまでの研究によって新たに、成虫原基における傷害が遠隔的に体液のトリプトファン代謝産物を変化させ、その適切な代謝の制御が成虫原基の組織修復に重要であることを明らかにした。本研究において、GPCRスクリーニングおよび培養細胞系を用いたbinding assayによって、下流代謝産物であるキヌレン酸がアロステリックに特定のGPCRのシグナルを増幅することが示唆され、トリプトファン代謝の遠隔的修復の作用機序の一旦が明らかになってきた。これは当初の予定を順調に進めていると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、同定された候補GPCRがどこでどのように働き組織修復に寄与するのか、またトリプトファン代謝を変化させる具体的な分子メカニズムの同定を、遺伝学的解析、生化学的・分子生物学的解析によって明らかにし、組織間相互作用が再生・組織修復に与える新規のメカニズムの解明に向けてさらに深く研究を進める。
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Causes of Carryover |
ショウジョウバエ個体を用いた解析の代わりに細胞生物学実験が先行したため。 次年度に予定していた遺伝学的解析のウェイトを増やし、修復プロセスの解析をさらに行う予定である。
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Research Products
(4 results)