2019 Fiscal Year Research-status Report
内胚葉から食道領域が間充織とともに作り出される機構
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19K16148
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Research Institution | Kyoto Sangyo University |
Principal Investigator |
寺元 万智子 京都産業大学, タンパク質動態研究所, 研究員 (10793747)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | マウス / 内胚葉 / SOX2 / 食道 / 気管 / AFG |
Outline of Annual Research Achievements |
野生型マウス胚では、AFG(Anterior foregut; 内胚葉由来、前腸の頭側)の腹側からは呼吸器(気管、気管支、肺)が、背側からは食道が発生する。呼吸器と食道の管が分岐する前のAFGの内胚葉由来の上皮では、腹側上皮では転写因子Nkx2.1が発現しており、背側上皮では転写因子SOX2が発現している。転写因子SOX2を内胚葉で特異的に失活させると、AFGが気管と食道に分岐せずに、咽頭から胃までがつながった一本の管として発生すること、管の上皮全体が呼吸器の性質を持つこと、管の上皮の周囲を取り囲む間充織(SOX2は発現していない)全体が呼吸器の性質に発生することが判明し、上皮の性質に合わせた間充織が発生することが明らかとなっていた。 2019年度に得られた成果は、①SOX2を失活させた場合に発生する一本の管の上皮の性質が、前側は気管の性質を持ち、後側では気管支の性質を持っていること、②前側上皮周辺の間充織は気管、後側の間充織は気管支の性質を持つことがわかり、上皮の性質の細やかな違いが忠実に間充織の性質にも反映されていることを明らかにし、これらの結果を論文にまとめて発表することができた。 また、申請時は、上皮から間充織へのシグナル因子を探索し、活性を検討すべき因子の機能を器官培養を用いて調べる予定であった。しかしSOX2を失活させた胚組織の入手効率が非常に低いことから、組織ではなく培養細胞を用いたアッセイ系を用いることで研究がより進めやすくなると考えた。そこで、研究協力者及び大学院生の協力を得ることで、エピブラスト幹細胞から内胚葉系オルガノイドへの分化誘導系が確立され、その内容は論文にまとめて発表された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
上皮及び間充織の双方について、当初考えていたよりも細やかな領域性が存在することが判明し、より多くの胚組織を入手して複数の遺伝子発現を確認して組織の領域性を細かく調べる必要が生じた。本研究では母獣経由で薬剤を投与し、胚組織で特異的にSOX2を失活させることができるノックインマウスを使用している。ノックインマウスでは、母獣が出産しても産児数が少なかったり途中で育児をしなくなるなど実験に使用できるマウス個体が増えづらかったり、交尾を確認した個体の妊娠確率が低かったりするなどの事情で、胚組織の入手にとても苦戦した。そこで、これまではホモノックインマウスを維持してこれらを交配して胚組織を入手していたが、野生型個体と掛け合わせてヘテロノックイン個体を作成して交配を行う方策を試すなど工夫することで胚組織の入手確率が少し上昇したが、残念ながら入手確率を大幅に上昇させるには至らず、研究が計画通りに進まなかった。
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Strategy for Future Research Activity |
内胚葉および内胚葉由来の組織では、SOX2の発現パターンはダイナミックに変動する。7.5日胚ではAFGを含む前側の内胚葉でSOX2が発現し、9.5日胚では将来食道を形成する背側でSOX2が発現するが、将来呼吸器を形成する腹側ではSOX2の発現が抑制される。11.5-12.5日胚になると呼吸器上皮でSOX2の発現が再開する。そのため、SOX2を失活させるタイミングや、調べる胚のステージによって、様々な表現型が観察されることが予想されていた。そこでまずは、内胚葉が作られる7.5日胚の時から内胚葉特異的にSOX2を失活させ、11-13日胚の組織について研究を行った。その結果、11-13日胚の、特に気管の性質を持つ前側のAFGの間充織は、平滑筋の分布と軟骨前駆細胞で発現する転写因子SOX9の発現が、野生型気管間充織とほぼ同様のパターンであることが観察されていた。しかし、16日胚では、野生型では通常形成されているリング状の軟骨が、SOX2失活胚組織では観察されなかった。この結果は、上皮でのSOX2の発現が、食道の形成だけでなく、呼吸器の間充織における軟骨の成熟を制御することを示している。 今年度は、SOX2を失活させた胚組織で、呼吸器上皮を構成する分化細胞の種類や分布、間充織における軟骨の形成不全に注目して、SOX2が失活した場合の呼吸器での影響について調べるとともに、SOX2を失活させるタイミングを変化させてどのタイミングのSOX2の発現が、食道の形成や呼吸器軟骨の成熟という異なる表現型に関与するかをつきとめ、上皮から間充織に働きかける因子の解明につなげたい。
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