2020 Fiscal Year Research-status Report
代償的に誘導される転写の制御機構の解明:体節形成を制御するMespをモデルとして
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19K16152
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Research Institution | National Institute of Genetics |
Principal Investigator |
岡田 甫 国立遺伝学研究所, 遺伝形質研究系, 博士研究員 (10835036)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 遺伝子代償機構 / Mesp / エンハンサープロモーター相互作用 / 体節 / 未分節中胚葉 |
Outline of Annual Research Achievements |
前年度までに立ち上げた体節誘導系を用いて、新規遺伝子代償機構の解明を、同一染色体上で隣接するMesp1、Mesp2遺伝子をモデルとして引き続き行った。前年度までに、これまで報告のあったNMD経路を介した代償機構 (M. El-Brolosy et al. Nature 2019)ではない、隣接する遺伝子間でのエンハンサーを介した代償機構の存在を示唆するデータを得ていた。 申請者は、Mesp2遺伝子欠損時に、Mesp2エンハンサーの標的がMesp2からMesp1に変わることでMesp1遺伝子が活性化されるという仮説を立て、それの検証にあたった。 この検証のためにenChIP法 (Genes to Cells, T. Fujita et al., 2017) を用いて、ゲノム領域の物理的相互作用を解析した。期待通り、Mesp2エンハンサーとMesp1プロモーターおよびMesp1エンハンサーが物理的に相互作用しており、Mesp2エンハンサーがMesp1の遺伝子発現を直接制御することを示唆するデータが得られた。しかしながら、Mesp2エンハンサーとMesp1制御領域の相互作用はMesp2遺伝子の欠損に依らず、未分節中胚葉で形成されており、Mesp2エンハンサーは物理的相互作用に加えて、他の刺激により標的遺伝子をMesp1に変更していることが示唆された。更に、Mesp2エンハンサーはMesp1だけでなく、もう一つのMesp2隣接遺伝子であるAnpepのプロモーター領域とも相互作用しており、Mesp1同様、Mesp2遺伝子欠損時にAnpepの発現が上昇していた。これらの結果からMesp2遺伝子欠損時にMesp2エンハンサーがその標的をMesp2からゲノム相互作用がある異なる遺伝子に変更しており、このようなエンハンサーの標的変化が代償機構として働くという新たな知見が得られた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
Mesp遺伝子の代償機構でなぜ体節が形成されないのかを明らかにするため、幾つかのMesp2欠損ES細胞による体節誘導系にて、代償機構の再現を狙った。これには成功したが、当初明らかにしようとしていた代償的に誘導されるMesp1が内在性のMesp2に比べて遅れ、体節形成を救済できない可能性を検討できなかった。しかしながら、Mesp2遺伝子の異なる欠損領域をもつ変異株の解析から、これまで報告のあったNMD経路を介した代償機構ではない、隣接する遺伝子間のエンハンサーを介した新たな代償的機構を示唆する結果が得られた。研究開始当初予想していなかった結果が得られたので、計画を変更し、ゲノム間相互作用を解析するenChIP法を導入して、隣接する遺伝子間でのエンハンサーの嗜好性の変化を明らかにしようとした。 その結果、Mesp2エンハンサーとMesp1プロモーターおよびMesp1エンハンサー、更にMesp2と隣接するもう一つの遺伝子であるAnpepのプロモーターが物理的に相互作用していた。しかしながら、Mesp2エンハンサーとMesp1制御領域、およびAnpepのプロモーターの相互作用はMesp2遺伝子の欠損に依らず、未分節中胚葉で形成されており、Mesp2エンハンサーは物理的相互作用に加えて、他の刺激により標的遺伝子をMesp1に変更していることが示唆された。これらの結果から、Mesp2遺伝子欠損時にMesp2エンハンサーがその標的をMesp2からゲノム相互作用がある異なる遺伝子に変更しており、このようなエンハンサーの標的変化が代償機構として働くという新たな知見が得られた。ここまでの結果をまとめ、現在論文投稿準備を進めている。 このように、当初検討しようとしていた仮説は検討できなかったが、新たな知見を得ることができたので、このような進捗状況になった。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究で、Mesp2遺伝子欠損時にMesp2エンハンサーがその標的をMesp2からゲノム相互作用がある異なる遺伝子に変更しており、このようなエンハンサーの標的変化が代償機構として働くという新たな知見が得られた。このエンハンサーの標的は、エンハンサーがゲノム上で物理的に相互作用する領域が変わることで決まるわけではなかった。 今後は、①Mesp2遺伝子の欠損に依らず、未分節中胚葉で形成される、Mesp2エンハンサーとMesp1制御領域の相互作用の決定因子を明らかにすること②この物理的相互作用によるMesp2エンハンサーの標的が何の刺激で変化するのかを明らかにすることが課題となる。 本研究でゲノム領域の物理的相互作用の解析に用いたenChIP法 (Genes to Cells, T. Fujita et al., 2017) は、ゲノムと相互作用するゲノムだけでなく、相互作用するタンパク質やRNAの同定も可能である。この方法を用いてMesp2遺伝子の欠損如何で、変化する相互作用分子を同定し、①②に関わる候補分子を絞り込むことを検討している。 相同遺伝子は遺伝子重複により生まれており、相当数の相同遺伝子対が隣りあう。このことから、この新たな遺伝子補償機構はMesp遺伝子以外にも適用できる可能性がある。そのような候補遺伝子を探索し、機構の一般化を図る。
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Causes of Carryover |
研究計画が遅れたことと、現在準備中の論文の投稿およびその予備実験に備えるため。
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