2019 Fiscal Year Research-status Report
植物におけるリボソームによるショ糖感知とC/N比の代謝統御機構の解明
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19K16159
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
山下 由衣 北海道大学, 農学研究院, 助教 (40803383)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | ショ糖 / リボソーム / uORF / 転写因子 / 翻訳 / 翻訳停滞 / 翻訳制御 / 代謝制御 |
Outline of Annual Research Achievements |
真核生物のmRNAには主要ORFの上流に上流ORF(uORF)が存在する場合があり,翻訳の制御において重要な役割を担っている。シロイヌナズナのS1-bZIP転写因子ファミリーは,ショ糖や光に応答してアミノ酸と糖代謝を調節する重要な転写因子であり,その発現はショ糖により抑制される。S1-bZIP転写因子ファミリー内で保存されたS1-bZIP uORF2がS1-bZIP mRNAに共通のシス因子としてショ糖に応答したリボソームの停滞を引き起こす。本研究は,S1-bZIP uORF2の機能に着目し,ショ糖感知の分子機構とその生理学的意義に迫るものである。 1. S1-bZIP uORF2によるショ糖感知の分子機構 ショ糖に加えアミノ酸がS1-bZIP uORF2 のリボソーム停滞に関与する可能性を,既報のメタボロームデータを参照して検証した。しかしながら,少なくとも最有力候補と期待されたアスパラギンとプロリンについては,リボソーム停滞への関与は認められなかった。リボソームの停滞はmRNA品質管理機構による分解を引き起こすことが報告されている。そこで,ショ糖に応答したリボソーム停滞がmRNA分解を引き起こすのかどうかを検証した。その結果,S1-bZIPファミリー内でmRNA分解と品質管理機構の関与に多様性があることが見出された。 2. C/N応答統御の代謝生理学的解析 S1-bZIP uORF2の機能に着目し,ショ糖感知の分子機構とその生理学的意義に迫る研究に資するために,ゲノム編集を用いて,S1-bZIP uORF2が改変されたシロイヌナズナを作出中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
1. S1-bZIP uORF2によるショ糖感知の分子機構 ショ糖に応答したS1-bZIP uORF2における翻訳停滞は,植物および動物由来の無細胞翻訳系において再現される。本研究ではS1-bZIPがアミノ酸代謝を調節する転写因子であることから,bZIP11 uORF2における翻訳停滞にショ糖と共役して,アミノ酸がエフェクターとして関与する可能性を検証した。先行研究によって,S1-bZIPはプロリンとアスパラギンの蓄積量に顕著な影響を与えることが示唆されていた。これらのアミノ酸はコムギ胚芽由来の無細胞翻訳系においてはショ糖と同時に添加しても,ショ糖を単独で投与した場合と同等の翻訳停滞効率示した。このことから,少なくともプロリンとアスパラギンについてはbZIP11 uORF2における翻訳停滞に影響を与えないことが示唆された。 また,シロイヌナズナの芽生えを用いたmRNA分解の解析系を用いてmRNA分解およびmRNAの品質管理機構の関与を検証した。S1-bZIP mRNAのうち,bZIP11,44に比べて,bZIP1,2,53はショ糖に応答して顕著に分解を受けることが明らかとなった。また,bZIP2, 53については品質管理機構によるmRNA分解が関与することが示された。 2. C/N応答統御の代謝生理学的解析 次年度以降の代謝生理解析に資する実験材料として,CRISPR/Cas9系を用いたゲノム編集により,5個のS1-bZIPのうち少なくとも2個についてuORF2の機能破壊が期待されるシロイヌナズナ株を作出中である。S1-bZIPファミリー内で機能的な重複があっても効果を検出できると期待される。
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Strategy for Future Research Activity |
1. S1-bZIP uORF2によるショ糖感知の分子機構 コムギおよびシロイヌナズナの試験管内翻訳系を用いて,ショ糖とuORF2新生ペプチドによるリボソーム停滞機構を解明する。S1-bZIP間でuORF2の配列は完全に保存されている訳ではなく,新生ペプチドとして重要なC末端部分の配列に多様性がある。そこで,S1-bZIP間でのリボソーム停滞効率やペプチド転移活性の比較に基づき,uORF2のショ糖センサーとしての生化学的特徴を議論する。また,uORF2ペプチドの機能へのリボソーム出口トンネルの関与を検証する。申請者らが作出した,リボソーム出口トンネルを構成するリボソームタンパク質の変異株を用いて,試験管内翻訳系を調製し,翻訳停滞の効率やペプチド転移活性の低下を解析する。uORF2ペプチドの配列の多様性と出口トンネルの影響の差異から,本制御の普遍性と多様性を議論する。また,bZIP11以外のS1-bZIP uORF2について,アミノ酸がリボソーム停滞に与える影響を検証する。アミノ酸栄養の関与が認められた場合は,mRNA分解系においてもその関与を検証する。
2. C/N応答統御の代謝生理学的解析 ゲノム編集により作出中の,5個のS1-bZIPのうち少なくとも2個についてuORF2の機能破壊が期待されるシロイヌナズナ株の選抜を継続する。5個全てのS1-bZIPについてuORF2の配列解析により,破壊の有無を確認する。5個のうちできるだけ多くのS1-bZIPファミリーuORF2が破壊された株を確立する。得られた株および,mRNA品質管理機構に関わる変異体を用いて,代謝,C/N応答の生理解析を実施する。
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