2019 Fiscal Year Research-status Report
陸上植物の変動光への馴化と遠赤色光の役割:プロトン駆動力調節による光合成の最適化
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19K16162
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
河野 優 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 特任助教 (40838265)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 光合成 / 遠赤色光 / 変動光 / 熱散逸 / 緑色植物 |
Outline of Annual Research Achievements |
植物光合成に必須の400 - 700 nmの波長域の光(光合成駆動光)は、野外においてその強度が激しく変動している。この変動光は、葉緑体の光合成電子伝達成分のひとつである光化学系Iの活性を低下させてしまう。植物は種々の防御機構を持っているが、それでも光化学系Iが障害を受ける。ところが、700 - 800 nmの遠赤色光と呼ばれる光合成に直接寄与しない光を共存させることによって、光化学系の障害はほぼ完全に抑えられる。「光合成を駆動しない光による光合成の調節」という概念は光合成研究に新しい概念を提示できることから、遠赤色光による光合成の調節機構の解明は重要である。 当該年度の研究では、光合成駆動光の変動光(強光と弱光の交互照射)に遠赤色光を補光することで、変動光弱光期の光合成速度が促進されることを見出した。緑色植物のモデル植物シロイヌナズナ、陰生植物クワズイモ、陽生植物タバコに変動光を照射したときの、CO2交換速度と光合成電子伝達活性を測定した。強光期の光合成速度は遠赤色光の補光に関わらず、光合成速度に差は見られなかったが、強光から弱光に移行したときの光合成速度は、遠赤色光を補光したときに有意に高くなった。このとき、光合成に利用できない過剰な光を熱に変換して逃がす熱散逸活性が、遠赤色光によって不活性化が促進された。遠赤色光が共存することで、吸収した光エネルギーの光合成へ利用と廃棄の切替を効率よく行うことで光合成が促進されたことが明らかになった。 引き続き、遠赤色光による光合成促進機構の解明に取り組む。光合成の応答を詳細に解析した結果、葉緑体内のいくつかの成分の寄与が予測された。今後は、変異体を用いて詳細な解析を行い、遠赤色光による光合成調節を光照射の時系列ごとに明らかにしていく。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
変動光中の弱光期間における遠赤色光による光合成促進には、少なくとも①光合成膜を介したイオンの輸送効率、②光合成電子伝達活性の調節に欠かせないリン酸化・脱リン酸化酵素の活性が関与することを変異体の解析からすでに見出している。①と②は独立して光合成調節に寄与している可能性が高いことから、①と②のそれぞれの調節機構の解明を同時進行で進めている。 また、光合成器官が損傷してしまうような極端に強い光の下では、遠赤色光が光合成成分の損傷を促進してしまうことをを新たに発見した。しかし、この一見都合の悪い現象が実は光合成系全体を保護する可能性が示唆された。現在、この現象の詳細な機構と、この機構が過酷な野外環境での植物の生存にもたらす意義を明らかにすべく研究を進めれている。
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Strategy for Future Research Activity |
遠赤色光が光合成膜を介したイオン輸送の効率に影響を与えること、かつそれに関わる因子を特定できたので、論文投稿中である。 遠赤色光が光合成電子伝達成分のリン酸化/脱リン酸化酵素活性の調節に影響を与えることはすでに見出せている。今後は、遠赤色光によって活性化/不活性化されるリン酸化/脱リン酸化酵素を特定し、変動光下で効率よく光合成を行うための最適な各光合成成分リン酸化程度を明らかにする。これは、法政大学水澤直樹教授の研究室との共同研究で行う。また、リン酸化の程度によって誘導される光合成膜の構造変化を、神戸大学の秋本誠志教授研究室と共同研究で測定する。 遠赤色光がストレスのシグナルとして働く可能性について、野外での測定も含めて進めている。現在、論文準備中である。
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Causes of Carryover |
当該年度の計画通りに研究が進まなかった箇所について、その部分に該当する使用額が次年度使用額として生じた。また、2020年1月-3月において新型コロナウィルスの影響で出張費について未使用分が発生した。 当該年度に生じた出張旅費の未使用分は次年度の出張旅費に当てる。 翌年度分として請求した助成金の使用計画については、次年度使用額と併せて、予定通り使用できる。
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