2021 Fiscal Year Research-status Report
プラナリアの生殖様式を操作する共生細菌の存在とその機能の解明
Project/Area Number |
19K16175
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
関井 清乃 慶應義塾大学, 商学部(日吉), 助教 (50786358)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | プラナリア / 生殖様式 |
Outline of Annual Research Achievements |
扁形動物プラナリアは無性生殖と有性生殖をつかいわけることができ、実験的にも無性個体を有性個体に転換させる系が確立されている(有性化)。先行研究により、プラナリアの無性個体と有性個体の細菌叢は大きく異っており、また、抗生物質処理によってプラナリアの有性化が一部進行することから、プラナリアの無性状態を維持する共生細菌が存在することが示唆された。受精卵を経て次世代をのこす有性生殖にくらべ、分裂・再生によって数を増やすプラナリアの無性生 殖は共生細菌の増殖にとっても有利となり、そのように宿主の生殖様式を操作する共生細菌の存在があきらかとなれば、興味深い報告となる。本研究ではこのプラナリアの無性化に関与する共生細菌(細菌Xとする)の存在とその機能の解明を目的としている。
2019-20年度は(i)無性に多い細菌のなかから、配列特異的なノックダウンを行うことで細菌Xの同定に成功した。また(ii)プラナリアDugesia ryukyuensisにおいて蛍光 in situ ハイブリダイゼーション(FISH)の系を確立し、細菌Xが腸内細菌であることを明らかにした。さらに、(iii) 細菌Xの機能を推定するメタゲノム解析を行うため、プラナリアのDNAを含まない細菌ゲノムの調整方法の条件を確立し、メタゲノムシークエンスを行った。
2021年度は、前年度のメタゲノムシークエンスで得られた無性プラナリアの細菌叢のDNA配列について、コンピュータによる解析によってゲノムのde novoアセンブリを試みた。しかし良好な結果が得られなかったため、現在、環状ゲノムのde novoアセンブリのためのプログラムを変えて、新たに解析を試みている。また細菌叢としての機能を比較するために、有性個体の細菌叢についてもメタゲノムシークエンスを行うことを試みている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2019年度、2020年度は当初の計画通り、順調に研究を進められた。まずプラナリアの無性個体に多く存在する細菌のなかから、無性状態に関与する細菌Xを同定することができ、さらに、細菌Xは腸内細菌であるという知見を得ることができた。また、宿主(プラナリア)のゲノムDNAを極力排除した質の高いDNA調整方法もうまく確立できたため、大量のロングリードのシークエンス生リードを得ることができた。
2021年度は、9月から所属が弘前大学農学生命科学部のポスドク研究員から慶應義塾大学の生物学教室の助教に変わったため、引っ越しや業務内容の変更などにより研究の遂行に遅れが生じてしまった。 また前年度のメタゲノムシークエンスで得られたDNA配列について解析を試みたが、質の良いDNAが確保できたおかげで大量のシークエンス配列(N50値が約1.6Kbで約1700万リード)が得られた分、生データを解析用の塩基配列に変換する過程に数ヶ月かかってしまい、解析の開始に遅れが生じた。また当初に使用した、ゲノムのde novoアセンブリのためのプログラムでは良好な結果が得られなかったため、現在、プログラムを変えて、新たに解析を試みている。さらに、細菌叢の機能を比較するために、有性個体についても細菌叢のメタゲノムシークエンスを試みているが、有性個体の細菌数は無性個体のものよりも圧倒的に少ないことが判明し、必要なDNAの量の確保に遅れが生じている。
これらのことから総合して、「(3)やや遅れている」と判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
現在、細菌Xを含めたプラナリア無性個体の細菌叢のメタゲノム解析が進行中である。今後はこれに、有性個体の細菌叢のサンプルも加え、無性個体の細菌叢と比較するメタゲノム解析を行い、細菌Xがプラナリアの無性個体で行っている特定の機能(物質の代謝など)を推定することで、細菌Xがどのようにして宿主の無性状態を維持しているかのメカニズムの解明を目指す。
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Causes of Carryover |
細菌Xを含むプラナリア無性個体の細菌叢のシークエンスは行ったが、比較のための有性個体の細菌叢のシークエンスに遅れが生じているため、それに伴う必要な消耗品(物品費)を2022年度に繰り越すことにした。
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