2019 Fiscal Year Research-status Report
近赤外光ガイドスター波面シェイピングによるマウス脳最深部での神経狙い撃ち制御
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19K16188
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Research Institution | Okayama University |
Principal Investigator |
渋川 敦史 岡山大学, 医歯薬学総合研究科, 特任助教 (80823244)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 光遺伝学 / 波面シェイピング / ホログラフィ / ロドプシン |
Outline of Annual Research Achievements |
オプトジェネティクスの新たな展開として,光の集束スポット(空間分解能~1μm)を用いて神経個体一つ一つを狙い撃ち制御し,「神経個体レベルでの神経科学的問い」を解き明かすことが重要視され始めている.しかし,脳組織は光を激しく散乱させるため,「課題A:1mm以上の脳深さに光の集束スポットを形成すること」や「課題B:脳深部に十分な光量を届けること」が物理的に難しい. この背景の中で,本研究では,「解決策A:ガイドスター光波面シェイピングの導入」及び「解決策B:アップコンバージョンナノ粒子(UNP)注入による近赤外光照射」を提案している.ガイドスター光波面シェイピングを用いることで,脳組織中の光伝搬をコントロールし,任意の位置に多重散乱された光を魔法のように集束させる.さらに,UNPを対象領域に予め注入しておくことで,近赤外光を照射光として利用し,散乱イベント数を物理的に低減する.これら二つの解決策を組み合わせ,本研究では「マウス脳最深部(~5mm)での狙い撃ち光遺伝学」を目指している.論文誌Biochemistry(Perspective)に発表した論文の中で,脳深部での光遺伝学に向けた有効な手法の一つとして,ここに述べたアプローチについて報告している. これまでの進捗として,2019年初めに,申請者は,細胞の電気活動を直接的に測定する「パッチクランプ法」を立ち上げ,「神経活動を計測する手法」を確立した.また,本研究で用いるサンプルとして,マウス脳を模倣する擬似サンプルを作製した.これは,犠牲にするマウスの個数を可能な限り抑え,生命の尊厳を守る意味で重要なステップになる.さらに,2020年初頭に,光波面シェイピングのセットアップを構築し,静的な擬似サンプルを通した「光集束」や「透過光エネルギーの改善」などを実証した.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
<パッチクランプ法の立ち上げ・構築> 神経細胞操作の成否を確かめるには,「細胞の電気的活動を計測する手法」も同時に確立しておく必要がある.このため,元東北大学の八尾寛教授の指導のもと,申請者は2019年初めに「パッチクランプ法」の実験セットアップをゼロから立ち上げた.現在は,当研究室の多くの学生がこのパッチクランプ法を利用して,光遺伝学に有用なロドプシン分子に関する研究を進展させている. <脳組織の散乱応答を模倣する動的疑似サンプルの作製> 脳組織の散乱応答変化や散乱係数(散乱の程度)を模倣する動的疑似サンプルを作製した.具体的には,グリセリン,蒸留水,直径1umのポリスチレンビーズを混ぜ合わせた溶液を厚さ2mmの石英セルに注入した.擬似サンプルの散乱係数は,ポリスチレンビーズの濃度を調整することでマウス脳組織の散乱係数(10(1/mm))と同程度に設定した.また,サンプルの温度を調整することで,散乱応答の変化速度を脳組織の場合と同程度に設定した.以上のように設計された擬似サンプルは,in-vivoマウス脳が示すミリ秒レベルの散乱応答速度(~1ms)を再現した. <静的な疑似サンプルを用いた光波面シェイピングの動作実証> 直径1umのポリスチレンビーズ,蒸留水,1%の寒天パウダーを混ぜ合わせたものを石英セルに注入することで,脳組織の散乱係数[10(1/mm)]を模倣する厚さ2mmの静的な散乱媒質を作製した.この静的な散乱媒質を用いて,波面シェイピング技術の動作を原理実証した. 媒質背後のある局所的な位置に光エネルギーが集中するような波面解Einを透過マトリクス測定により求めた.その入射波面を用いて,2mmの厚さを持つ散乱媒質背後に光集束スポットを生成することに成功した.繰り返しによる最適化手法によっても波面解Einを求めることに成功した.
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Strategy for Future Research Activity |
マウス脳はサブミリ秒の時間スケールで散乱応答を時々刻々と変化させている.そのため,最適な波面解Einを求め,これを空間光変調器に表示するまでの一連のフィードバックサイクルをサブミリ秒以内に収める必要がある.一般的な波面シェイピングシステムの時間サイクルは数秒程度であるため,現状1000倍ほどの超高速化が必要になる. これを踏まえ,現在は,サブミリ秒の応答速度をもつ超高速波面シェイピングシステムを開発することに焦点を置いている.数値シミュレーションによって,高速化に関するアイデアの有効性は既に確認済みである.現在は,633nmのHeNeレーザー,アバランシェフォトダイオード,マイクロミラーデバイス,共振器ミラーらを用いて,サブミリ秒波面シェイピングシステムを構築している段階にあり,今後,作製した動的な擬似サンプルを用いてシステムの有効性を実験的に実証する.この段階で,「世界初のマウス脳に適用可能な超高速波面シェイピングシステム」として,成果を論文誌に投稿する.その後,開発したシステムを実際に光遺伝学へ展開する.具体的には,厚さ2mmのマウス脳スライスの背後に,「アニオンチャネルロドプシン」を遺伝工学的に発現させた「HEK293培養細胞」を用意し,波面シェイピングシステムによって,細胞個体上に,光集束スポットを生成する.そして,細胞個体を狙い打ちで光操作できることを「パッチクランプ法を用いた培養細胞の電流測定」によって確かめる.
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Causes of Carryover |
実験で使用する消耗品(試薬など)を購入する予定である.
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