2020 Fiscal Year Research-status Report
Physiological mechanism underlying annual and lunar spawning of Acropora tenuis
Project/Area Number |
19K16189
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Research Institution | University of the Ryukyus |
Principal Investigator |
武方 宏樹 琉球大学, 戦略的研究プロジェクトセンター, 特命助教 (60814192)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | ウスエダミドリイシ / サンゴ / 一斉産卵 / 季節適応 / 網羅的遺伝子発現解析 / RNA-seq |
Outline of Annual Research Achievements |
造礁サンゴの一種であるウスエダミドリイシAcropora tenuisは、初夏の満月に一斉に産卵する。産卵時期を決定するために、ウスエダミドリイシは外環境から季節情報を読み取っていると考えられるが、その生理機構に関しては依然として不明な点が多い。本年度は産卵時期を決定する環境要因の特定を目的とした飼育実験と、産卵と関連して発現が変動する遺伝子の探索を目的としたRNA-seqによる網羅的遺伝子発現解析を行った。 昨年度の飼育実験において、環境条件をコントロールした結果、産卵が一ヶ月遅延した。本年度は、同一のサンゴ群体と新規に採集した群体を用い、実験の再現性を確認した。その結果、本年度の実験では産卵が観察されなかった。2年目の群体では飼育環境下では生殖腺が十分に成熟しなかった可能性もあるが、新規の群体でも産卵が観察され無かった点を考慮すると、COVID-19による活動制限に伴い産卵前の4-5月に世話の頻度を減らしたことが影響したのではないかと考えている。この結果から、産卵前の飼育環境の違いが、サンゴ産卵の有無に影響する可能性が示唆された。 網羅的遺伝子発現解析では、2017年のサンプルを対象に、2019年に公開されたウスエダミドリイシのゲノムデータを用いて再解析を行った。産卵の有無を確認するために、各サンプルの組織切片を作成し、生殖腺を観察した結果、1群体は産卵しなかったことが明らかになった。次に、RNA-seqの結果に関して、多次元尺度構成法を用いて、各サンプルの類似度を確認したところ、サンプル間の類似度が採集月と群体に関連するという結果が得られた。一方、産卵しなかった群体では、5月のサンプルが6月のサンプルに類似する傾向がみられた。このことから、産卵しなかった群体は5月の段階で産卵しないことを既に決定しており、6月の生理状態に近くなっていたと類推された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
サンゴが産卵の指標としている環境要因を特定するための飼育実験では、昨年度に本来サンゴが産卵しないはずの月に産卵を誘導することができた。実験計画の段階では、実験室内の飼育環境下では、サンゴが産卵期を逃したと判断し、正常に産卵を行わない可能性が最大の懸念材料であった。昨年度の時点で、サンゴが実験室でも産卵することが確認できたことは、本研究を進める上で、非常に大きな進展であった。本年度の実験では、産卵そのものを観察することが出来なかったが、飼育環境下において産卵後のサンゴが十分に成熟しない可能性が示唆されたことは、今後の研究を進める上で有意義な情報となる。また、本年度は飼育水槽を増設したので、より多くのデータが得られることが期待される。 また、網羅的遺伝子発現解析では、偶発的にではあるが、産卵をしなかった群体のトランスクリプトーム解析と組織観察を行うことが出来た。この結果から、晩冬から初春の間に、サンゴが産卵するかしないかを決定していることを明らかにできたことは、非常に大きな研究成果である。
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Strategy for Future Research Activity |
飼育実験に関して、来年度は新規に設置した飼育水槽も使用し、環境要因のコントロールによって産卵時期が変化するかを検証する。 また、網羅的遺伝子発現解析の結果から、1149個の遺伝子の発現が産卵前後で有意に発現が変動しており、その中には、生殖腺発達関連遺伝子やアポトーシス関連遺伝子が含まれていた。それらの遺伝子の発現量をqPCRで確認する。 さらに、先行研究において、ウスエダミドリイシの季節性が、ある環境要因が一定の閾値を超えると急激に生殖腺を発達させる光周性のような仕組みではなく、一年を通して段階的に生殖腺を発達させる仕組みであると推測されている。そこで、特定の時季のサンゴを低温もしくは高温条件で飼育し、その生理状態がどのように変化するのかを網羅的遺伝子発現解析によって観察する。
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Research Products
(2 results)