2019 Fiscal Year Research-status Report
コオイムシにおける生殖的形質置換とそれに伴う種分化の要因究明
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19K16209
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Research Institution | Shinshu University |
Principal Investigator |
鈴木 智也 信州大学, 理学部, 理学部博士研究員 (30739503)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 種分化 / 交配隔離 / 進化 / 交配実験 / パラメア形態 / 繁殖システム / 父性 / 父育 |
Outline of Annual Research Achievements |
コオイムシにおける日本列島集団と大陸集団間の方向性のある交配隔離機構を分子系統解析と交配実験から明確に示すことができた。このことから、日本列島集団と大陸集団は種分化の途にあることが明らかとなった。また、この種分化現象の要因がオスの交尾器形態の極めて興味深い進化史と関連していることが、姉妹種であるオオコオイムシとの比較から示された。 コオイムシの大陸集団の交尾器形態はオオコオイムシのそれと酷似しており、姉妹種間で形態を共有している状況から、コオイムシの大陸集団の交尾器形態は祖先形質であると言える。このことから、コオイムシの日本列島集団と大陸集団間の交尾器形態の差異は、日本列島集団において派生的な交尾器形態が進化したことが要因であると考えられる。一方で、コオイムシにおけるミトコンドリアDNAの分子系統解析からは、日本列島から遺伝的に大きく分化した2系統と大陸の1系統が検出され、九州を中心とする西日本系統と大陸系統が単系統群を構成し (遺伝的に近縁であり)、日本列島の2系統 (東日本系統と西日本系統) は側系統群を構成する (遺伝的に大きく分化している) ことが示された。したがって、コオイムシでは側系統関係にあり、遺伝的に大きく分化している日本列島の2系統において派生的な交尾器が進化したことが明らかとなった。また、コオイムシの日本列島集団と大陸集団における交配隔離機構成立の要因は、日本列島集団における交尾器の進化であることが各系統間の交配実験からも明確になったので、コオイムシにおいては遺伝的距離と交配隔離機構の程度に齟齬が生じているという極めて興味深い現象を生じていることが示された。さらに、コオイムシの日本列島集団における交尾器進化の要因となっているのがオオコオイムシとの繁殖干渉であることが明らかになりつつあり、これらの成果については既に国際誌への投稿を済ませ、現在査読中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
当初計画していたコオイムシの種分化現象の解明は既に明確に示された。また、コオイムシとオオコオイムシの種間における繁殖干渉についても、種間で交尾器形態が共有されている大陸においては強い繁殖干渉がある一方で、種間で交尾器形態が異なる日本列島では繁殖干渉の影響が少ないという、研究計画段階で想定していた結果が順調に得られている。 さらに、大陸集団に対して側系統群を構成する (遺伝的に大きく分化した2系統から構成される) コオイムシの日本列島集団において進化した交尾器形態が、どのようにして集団全体に固定されたのかと言う問題に関しても、日本列島における2系統間の二次的接触が生じていると考えられる中国地方の重要地域や、全国規模でのサンプリングを実施し、新規に開発したSSRマーカー (20座) での集団遺伝学的解析を実施することによって、系統間の二次的接触と交雑が生じたことによって側系統群を構成する日本列島集団全体で交尾器形態が固定されていったことを明確に示す結果が得られている。新規に開発したSSRマーカーについては、既に国際誌への投稿のための原稿を作成し、英文校閲を依頼しており、中国地方での重要地域を中心とした集団遺伝学的解析の結果についても論文化に向けた準備が順調に進んでいる。また、集団遺伝学的解析からは、交尾器形態が日本列島集団全体に固定されていったプロセスのみではなく、生物において遺伝的に分化した2系統間の二次的接触が遺伝的多様性創出に大きく寄与しており、極めて重要なイベントであることを示すデータが得られている。したがって、現在、論文化を進めているコオイムシにおける集団遺伝学的解析の結果は、単なる事例報告という枠を越えて、生物学的にも重要な知見となるものと考えている。以上の状況から、本研究課題は当初の計画以上に進展していると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
初年度までで既に当初計画していた研究内容の多くを実施し、結果についても国際誌への投稿を進めていることから、今後はさらに発展的な研究を進めていくことを考えている。 日本列島におけるコオイムシの交尾器形態進化については、オオコオイムシとの繁殖干渉に起因していることが明らかになりつつあるが、繁殖干渉の強度には、オスが卵塊を背負って孵化まで世話をするという極めてユニークな繁殖システムをもつコオイムシ類の繁殖戦略も深く関連していることが考えられる。コオイムシとオオコオイムシでは、卵サイズが異なっていることが明らかとなっている (コオイムシ<オオコオイムシ)。また、この卵サイズの差異がオスの世話行動やメスの交尾への積極性にも関係しており、卵サイズの大きなオオコオイムシの方がより慎重に交配相手を選択することが示唆されている。特にメスの交尾への積極性はオスの父性とも深く関連するものであり、コオイムシとオオコオイムシのどちらが種間交雑の影響を受けやすいかということに繋がる重要な問題である。昨年度までに新規に開発したSSRマーカーは個体識別や親子判定にも有用であることを確認しており、コオイムシ類の父性について追究することが可能であることから、これまでの進捗状況を踏まえて本年度以降は、当初の研究計画を実施し、国際誌への発表を進めると共に、コオイムシ類の父性と雌雄の繁殖戦略についても交配実験と分子系統解析を駆使した追究を展開していく予定である。
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