2019 Fiscal Year Research-status Report
特殊な海流散布能力をもつマンネングサ属種群における海洋島進化仮説の検証
Project/Area Number |
19K16212
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
伊東 拓朗 京都大学, 農学研究科, 特別研究員(PD) (10827132)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 海流散布 / 海洋島 / 適応進化 / 繁殖生態 / 鱗茎 / Sedum / Island Syndrome |
Outline of Annual Research Achievements |
海洋島に産する植物では, 他地域から種子や果実等が長距離散布された後に定着し, 長距離散布能力の喪失を伴った海岸性種の山地への適応進化が知られている.一方で,日本本土から1000kmも離れた小笠原諸島には,基本的に長距離散布を行わないベンケイソウ科マンネングサ属の一種であるムニンタイトゴメが例外的に分布している.また,これまでの研究から,山地性種であるムニンタイトゴメは南西諸島固有の海岸性種コゴメマンネングサと姉妹群の関係にあることが示唆されている.しかしながら,本種群の移入-定着-適応進化のプロセスは不明である.本研究では,本種群の祖先種がどのように小笠原諸島にたどり着き,海岸性から山地性へとニッチシフトを遂げたのか,海洋島進化プロセスの検証を行う. 今年度の研究から,コゴメマンネングサは他植物に例をみない,むかごが海流散布能力を有する一方で,山地性種のムニンタイトゴメはその相同な器官である地下鱗茎に比重の大きなデンプンを大量に蓄積し,その能力を失っていることが明らかになった.これは海岸から山地へのニッチシフトに伴い,長距離散布能力の喪失を経験していることを示唆している.さらにムニンタイトゴメの海岸集団を聟島列島に見出し,当該集団は基準産地を含む父島列島産のムニンタイトゴメとは大きく形態及び生態的特徴が異なることから,新種として記載する論文を投稿中である.この海岸集団を含めたムニンタイトゴメ種群の遺伝解析から,核遺伝子と葉緑体遺伝子に基づく系統樹間で,聟島列島産ムニンタイトゴメの系統的な位置に不一致が生じたため,葉緑体捕獲が起きていることが示唆された.これは聟島列島産ムニンタイトゴメが,父島列島産ムニンタイトゴメとコゴメマンネングサが分化したのちに近年再接触した結果として生じたことを示すもので,その存在が海を越えた長距離散布を近年も行っていることを実証する発見となった.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
今年度の研究から,コゴメマンネングサは他植物に例をみない,むかごが海流散布能力を有する一方で,山地性種のムニンタイトゴメはその相同な器官である地下鱗茎に比重の大きなデンプンを大量に蓄積し,その能力を失っていることが明らかになった.これは海岸から山地へのニッチシフトに伴い,長距離散布能力の喪失を経験していることを示唆している.さらにムニンタイトゴメの海岸集団を聟島列島に見出し,当該集団は基準産地を含む父島列島産のムニンタイトゴメとは大きく形態及び生態的特徴が異なることから,新種として記載する論文を投稿中である.この海岸集団を含めたムニンタイトゴメ種群の遺伝解析から,興味深いことに,核遺伝子と葉緑体遺伝子に基づく系統樹間で,聟島列島産ムニンタイトゴメの系統的な位置に不一致が生じたため,葉緑体捕獲が起きていることが示唆された.これは父島列島産ムニンタイトゴメとコゴメマンネングサが分化したのちに,近年再接触した結果として生じたことを示すもので,聟島列島産ムニンタイトゴメの存在が,海を越えた長距離散布を近年も行っていることを実証する発見となった. また,各種形態(葉,花,鱗茎)の計測も進めており,特にコゴメマンネングサとムニンタイトゴメの間には枝当たりの花数に有意に差があることが明らかとなっていることから,繁殖生態に違いがある可能性が示唆されている.また各種の生育環境のモニタリングも進めており,環境データの取得も随時進めている.
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Strategy for Future Research Activity |
これまでにムニンタイトゴメ種群のほぼ網羅的なサンプリングを行うことができているので,栽培環境下での交配実験による繁殖生態の評価,そしてゲノムワイドな集団遺伝解析による過去の接触時期の推定及び集団動態の推定を行う予定である.また,ムニンタイトゴメの新規ゲノム構築も進めていく予定である.また各種の環境データの取得も継続して進めていく.
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Research Products
(2 results)