2019 Fiscal Year Research-status Report
サンショウウオが分泌する糊の化学的成分の解明および適応進化に関する研究
Project/Area Number |
19K16214
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Research Institution | Nagahama Institute of Bio-Science and Technology |
Principal Investigator |
掛橋 竜祐 長浜バイオ大学, バイオサイエンス学部, プロジェクト特任助教 (50812004)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 一般化線形混合モデル / RNA-seq解析 / 質量分析 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、日本のサンショウウオ(サンショウウオ科)が分泌する接着粘液(糊)の①生物学的機能、②接着力の強さと系統関係の相関、③糊蛋白質とその遺伝子の解明を目的に研究を行っている。 ①生物学的機能: アメリカサンショウウオ科では、糊は外敵防御に働くと考えられている。日本のサンショウウオ科においても糊が外敵防御に有効か調べるためには、サンショウウオを外敵に晒すことによる行動生態学的観察が必要である。当該年度はこの観察に用いる予定の3種のサンショウウオのうちの1種(クロサンショウウオ)を17個体採取した。 ②接着力の強さと系統関係の相関: 種間の糊の接着力の強さの違いを明らかにするため、これまで5種のサンショウウオ各8個体から糊の接着力を測定した。測定ごとの誤差が大きかったため、各個体から5回の測定を行った。統計解析においては、この1個体当たりの反復測定を考慮するため、一般化線形混合モデルを導入した。その結果、これら5種のサンショウウオを3つのグループに分けたモデルでAICが最小となり、種間で糊の接着力に差があることが統計的に支持された。 ③糊蛋白質とその遺伝子: サンショウウオ糊の候補蛋白質を同定するため、RNA-seq解析および質量分析を行った。サンショウウオ糊は尾部から分泌される。RNA-seq解析では3種のサンショウウオの尾と胴体それぞれの皮膚組織を用いた。質量分析では1種のサンショウウオの尾と胴体それぞれの皮膚分泌物を用いて、ショットガン解析により分泌物に含まれる蛋白質を網羅的に同定した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究では、日本産サンショウウオ3属20種の解析を目標としている。しかし、当該年度は新しい種を採取することができず、現在採取できている数は申請書に記載した3属12種のままである。また、糊の接着力について統計解析を行う上では、それぞれの種で少なくとも8個体は必要であると考えているが、飼育中の死亡などもあり、現在それを満たしているのが5種にとどまっている。
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Strategy for Future Research Activity |
サンショウウオ糊の生物学的機能を調べるため、今年度中にサンショウウオを外敵(ヘビ)に晒した際の行動生態学的観察を開始する。実験に用いるサンショウウオの個体数の制約があるため、まずはサンショウウオがヘビに食べられないようにヘビの口を縛った上で相対させ、糊を分泌するか確認する。糊の分泌が確認されれば、サンショウウオの糊が防御に用いられる証拠となると考えられる。 種間の接着力については、すでに5種のサンショウウオを用いた統計解析で差があることが支持された。引き続きサンプリングを行い、接着力のデータを収集していく。サンプリングについては若干遅れがでているため、今年度は特に力を入れていく。 糊蛋白質とその遺伝子の同定では、mRNA-seq解析と質量分析のデータが揃ったため、今後は発現量解析を行い、サンショウウオの尾と胴体で発現量の異なる遺伝子を探索し、質量分析の結果と照らし合わせる。候補が見つかった場合、候補蛋白質についてポリクローナル抗体を作成して機能阻害実験を行い、接着力の低下が生じるか確認する。
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