2023 Fiscal Year Research-status Report
不均質な空間構造下における水産資源種に対する最適な管理政策についての理論的研究
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19K16225
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Research Institution | Saitama Medical University |
Principal Investigator |
別所 和博 埼玉医科大学, 医学部, 助教 (00792227)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 数理生物学 / 個体群生態学 / 生態学 / 水産学 / 藻類学 / 進化生態学 / メタ個体群 / 応用数学 |
Outline of Annual Research Achievements |
引き続き水産有用種と空間構造の関係についての研究を実施した。まず、アワビ類など海産無脊椎動物のメタ個体群動態についての数理モデルが完成した。このモデルは生息地ごとの物理条件などにより決まる生活史パラメーターからなり、生息地ごとの個体密度変化を明示的に記述している。解析により、この数理モデルにおいてメタ個体群の存続が、ある行列の最大固有値で支配されることが明らかになった。なお、この行列の固有値は、空間構造をもたない、ステージ構造のみを持つ個体群動態モデルにおける基本再生産数R0に対応する。次に、同じく水産資源であると共に、水産有用種の餌資源にもなりうる大型藻類(海藻)の生態と進化についての研究を発展させた。配偶体と胞子体という二つのステージからなる藻類個体群は、あたかも二つの分集団からなるメタ個体群として扱える。そのため、空間構造についての個体群生態学の手法が応用できる。例えば、藻類個体群が存続する条件を、基本再生産数R0を使って書けることなどが明らかになった。このR0は個体群存続の指標として有用であるだけではなく、進化を解析に応用することも可能である。例えば配偶体が胞子体に栄養供給するシステムの進化を調べる際にも、R0が重要な役割を果たした。メタ個体群を研究する手法が複雑な生活史をもつ生物の生態と進化の解析に応用できるという事実は、大型藻類よりもさらに複雑なシステムを示す生物(例えば複雑な雄/雌構造や、倍数性システムを示す生物)の生態と進化にも応用できると考えられるため、そういった問題にも、研究を発展させている。最後に、空間構造を扱う古典的なモデルである格子モデルについての研究から発見した「ゆっくりとした生活史」が有利になる現象についても、解析を進めた。この発見は、古典的なrK戦略やR0最大化といった最適生活史に関する問題の発展として、重要な位置づけになると予想される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
アワビのメタ個体群動態モデルについては論文投稿を行いたかったが、今年度は大型藻類に関する研究に注力したため、投稿に至らなかった。しかしながら、大型藻類についての研究や、その発展的研究については、多くの知見が得られ、その成果が論文として出版されたため、全体的には順調に進展していると言えるだろう。
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Strategy for Future Research Activity |
アワビのメタ個体群動態モデルについて、論文の原稿がおおよそ書き上がった段階であり、今後共著者らとブラッシュアップを進め、今年度中に投稿までこぎ着けたい。また、大型藻類の生態や進化についての研究、及びその発展的研究、ゆっくりとした生活史の有利さについての研究についても引き続き発展させたい。特に、現在では配偶体と胞子体の間に相互作用がある場合の問題、大型藻類個体群の存続を決める基本再生産数R0と進化の関係性についての問題、拡張されたモランモデルにおけるゆっくりとした生活史の進化についての問題、などについて取り組んでいくつもりである。
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Causes of Carryover |
新型コロナウィルス感染症の影響で、海外渡航の予定がなくなったため、海外渡航用の旅費が使われなかったことが大きな原因だといえる。残額は、本研究で得られたアイディアなどをもとにした発展的研究のために必要となる書籍類、及び論文投稿時に必要となる英文校閲費用と出版費用にあてる予定である。
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