2020 Fiscal Year Research-status Report
沖縄海域におけるザトウクジラの保全に向けた繁殖生態の解明
Project/Area Number |
19K16239
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Research Institution | Okinawa Churashima Foundation |
Principal Investigator |
小林 希実 一般財団法人沖縄美ら島財団(総合研究センター), 総合研究センター 動物研究室, 研究員 (40774401)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | ザトウクジラ / 繁殖生態 / ソング日周変動 / 沖縄 / 回帰率 / 海域間交流 / 衛星発信器 / 地域貢献 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、沖縄周辺に来遊するザトウクジラの基礎生態学的情報の収集および繁殖生態の解明を目的に、回帰率、出産率の算出および雄の鳴音行動に関する解析を行う。更に衛星発信器を用いた調査を基に、繁殖時期における本種の移動状況に関する情報拡充を目指す。また、研究結果を基に、ザトウクジラへの影響を最小限に抑えた、持続可能な地元ホエールウォッチング産業の体制作りを行う。以上により、本種の資源回復に向けた繁殖生態の解明と地域社会への貢献を目指す。 令和2年度は、慶良間諸島、本部半島周辺の2海域で計20日間調査を実施し、延べ230頭の個体識別写真(尾びれ腹側の写真)および発見位置情報等のデータを収集した。また、本部半島沿岸で録音した計363時間分の雄個体の鳴音(ソング)データを分析し、ソング行動の日周変動について研究を実施した。その結果、沿岸域における雄個体のソング活動は、日中は時間の経過とともに減少し、夜間により活発であること等が明らかになった。 また、沖縄で収集された約1700頭分の個体識別情報を用いて、ザトウクジラの沖縄周辺への回帰率を算出するとともに、フィリピン周辺との海域間交流についても分析を行った。その結果、沖縄では例年約7割の個体が、過去にも沖縄で確認されたことのある再識別個体であることが明らかになった。また、フィリピンで確認された個体の約半数が過去に沖縄でも確認されたことがあり、同年内に2海域間を移動する個体がいることも明らかになった。 これらの結果を基に、本研究課題の1つである「ザトウクジラの繁殖時期における沖縄海域の利用状況」についてまとめ、各成果を計2編の国際学術誌に掲載した。更に、昨年度5個体に装着した衛星発信器の結果について分析を進め、国際学会での発表に向け準備を進めた。また、地元事業者を対象とした勉強会を実施し、研究成果の還元および地域貢献を実施した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
令和2年度は緊急事態宣言の発令に伴い、調査回数の削減が余儀なくされたことから、当該年度に予定していた衛星発信器の追加装着を実施することはできなかった。 一方で、沖縄海域におけるザトウクジラの繁殖生態に関する分析および成果公表は当初の予定通り行われた。講演会を通じた研究成果公表による地域貢献も実施されていることから、おおむね順調に進展していると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
令和2年度は、これまでに収集した回帰率、雄の鳴音行動に関するデータをまとめ、計2編の論文掲載による成果公表を実施した。研究の最終年度である次年度は、令和元年度の調査で計5個体に装着した衛星発信器により得られた分布・移動データの分析を進め、学会発表および学術論文投稿による研究成果の公表を実施する。また、これまでに収集したデータを基に出産率に関する論文執筆を進める。 また、地元ホエールウォッチング事業者等への講演会を実施し、研究成果の地域への還元を行う。また研究結果から得られた情報を基に、地元事業者と協力して、ザトウクジラへの影響を最小限に留めた持続可能なホエールウォッチング産業の発展を目指すことで、地域貢献と本種の保全への寄与を目指す。さらに、当組織が管理運営する公園や水族館関連施設での展示会や講演会を通じて、広く一般へ対しても研究成果の公表を実施する。
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