2022 Fiscal Year Annual Research Report
ゲノムワイド解析によるテナガザル自然交雑集団の遺伝的動態の解明
Project/Area Number |
19K16240
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
松平 一成 京都大学, アジア・アフリカ地域研究研究科, 研究員 (60813441)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 交雑 / 遺伝子浸透 / テナガザル |
Outline of Annual Research Achievements |
類人猿の中で、現在、自然下での交雑が観察されているテナガザルは、ヒトの進化における交雑の様相、影響を考えるうえで、優れたモデルである。本研究では、シロテテナガザルとボウシテナガザルの間で起きている交雑が、2種の遺伝的構成にどのような影響を与えているかの解明を目的とした。様々な理由により、糞便試料の解析が困難であったため、全ゲノムデータを用いた解析を中心に行った。また、シロテテナガザルとボウシテナガザルだけでなく、他のテナガザル属のテナガザルの交雑も研究の対象とした。 全ゲノムデータから、様々なデータセットを作成し、複数の方法で系統関係を推定した。その結果、どの方法においてもテナガザル属の属内の種の系統関係について、大陸部から島嶼部へかけて種分化が進んだことを強く示した。その一方で、ゲノム中の個々の領域についてみると、種の系統関係を反映していない領域も多く見られ、インコンプリート・リネージ・ソーティング(ILS)と遺伝子浸透の両方の影響が示唆された。特に遺伝子浸透については、先に実施したGRAS-Di解析によるゲノムワイド解析と同様に、1)ボルネオシロヒゲテナガザルとミュラーテナガザル、2)ボウシテナガザルとシロテテナガザル、3)シロテテナガザルとアジルテナガザルの間で、その存在が強く示唆されたが、これ以外の組み合わせでも、遺伝子浸透の存在が示唆され、テナガザル属内での種間交雑が複雑で、進化史のモデルの作成が容易ではないことが示された。モデルの正確さの検証が困難であったため、より節約的なモデルで、遺伝子浸透の割合について推定を行ったが、用いる解析方法によって、推定された遺伝子浸透の方向や推定値が大きく異なるなど、正確な推定は容易ではなかった。
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