2021 Fiscal Year Research-status Report
Testing a game model on the stable polymorphism of colour vision in callitrichid species
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19K16242
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
関 元秀 九州大学, 芸術工学研究院, 助教 (30647409)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 数理モデル / ゲーム理論 / 性的二型 / 同性内多型 / 性染色体 |
Outline of Annual Research Achievements |
性的二型や同性内二型が集団内で安定的に維持される進化生態学的メカニズムについて、周囲の同種他個体の行動によって自個体の生存度・繁殖成功度が変化する現象を集団効果という概念で一般化し、数理モデル化・分析した。集団効果によって自個体の生存度・繁殖成功度が上昇する場合(注目する生得的行動に、正の集団効果が存在する場合)は性的二型・同性内二型がともに維持される可能性があり、いっぽう集団効果によって自個体の生存度・繁殖成功度が低下する場合(負の集団効果が存在する場合)は性的二型のみが維持される可能性があることが判明した。上記の研究成果をまとめた論文が、生態学分野のトップジャーナルのひとつである American Naturalist 誌に掲載された。 上記研究で構築した数理モデルは、メスのみに生得的行動の変容を引き起こす対立遺伝子と、オスのみに行動変容を引き起こす対立遺伝子について微分方程式系で記述していた。現実に突然変異によって生じる対立遺伝子は、両性に行動変容を引き起こすものかもしれない。また繁殖期があり、特に一回繁殖型生物種を扱う場合には微分方程式系よりも差分方程式系を使うほうがより現実的な近似になる。そこで発展研究として、両性に行動変容を引き起こす遺伝子・メスのみに生得的行動の変容を引き起こす対立遺伝子・オスのみに行動変容を引き起こす対立遺伝子が同時に発生しうる状況を差分方程式系で記述した数理モデルを構築した。引き続き分析に取り組んでいく。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
数理モデルによる予測を確かめるためのフィールドデータをコスタリカで採集する計画は、これまで誰も採集したことのない行動データを収集する必要があるため、新型コロナウイルス感染症の世界的流行に伴い申請者が日本からコスタリカに中長期的出張ができない現状下での実行が困難である。 いっぽう性的二型・同性内多型に関する数理モデリング研究は予想を上回る進展を見せている。中南米新世界ザルの色覚遺伝子の多型という個別事象を包含するかたちで、より一般性の高い(取り扱い可能な対象現象がより多い)、同種他個体の行動によって自個体の生存率・繁殖成功度が変わるという集団効果に関する数理モデルを構築することができた。本モデルの解析によって、正の集団効果があるときには同性内多型が安定的に維持される可能性がある、負の集団効果があるときには同性内多型は維持されない、性的二型は集団効果の有無に関わらず維持される可能性がある、等の理論的予測を得ることができている。さらにこれまでの数理モデルは性特異的に発現する行動遺伝子しか対象にしていなかったので、新しいモデルを構築し、保持者の性別に関わらず発現する行動遺伝子も同時に取り扱うことができるようにした。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの性特異的に発現する行動遺伝子しか対象にしていなかった数理モデルを改良して構築した、保持者の性別に関わらず発現する行動遺伝子も同時に取り扱うことができる新モデルを数学的に、および計算機を用いて解析する。 新規に計算機科学系の学術研究員を雇用し、上記の新しい数理モデルの計算機を用いた解析を共同で行う。 一般化された間接効果に関するモデルの予測の真偽を確認する。そのために、データベースを用いて既存のフィールドデータを検索する。
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Causes of Carryover |
当初計画では前年度に申請者自身がコスタリカでフィールド調査をし、得たデータを用いてモデルフィッティングを行うための高速計算機を購入する予定であった。しかし新型コロナウイルス感染症の世界的流行に伴いフィールド調査をできずにいるため、計算機で取り扱うべきデータがなく、当年度の物品費を執行できなかった。この余剰分を、新たに開発した数理モデルを解析する学術研究員の雇用に充てる。
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