2022 Fiscal Year Research-status Report
Testing a game model on the stable polymorphism of colour vision in callitrichid species
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19K16242
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
関 元秀 九州大学, 芸術工学研究院, 助教 (30647409)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 数理モデル / ゲーム理論 / 性的二型 / 同性内多型 / 性染色体 |
Outline of Annual Research Achievements |
2021年に開発し Kuga, Seki, et al. (2021) として発表した、形質の性的二型や同性内多型が集団内で安定的に維持される進化生態学的メカニズムに関する数理モデルは、遺伝システムの記述が近似的であり、雌雄それぞれが単為生殖する生物の進化動態の数理モデルと同等のものであった。さらに性的二型が保たれうる形質の進化と、集団の性比(オスメス比)との関係も、解き明かすべき課題として残っていた。2022年度は前記数理モデルを改定し、遺伝システムを正確な数式で記述し、注目する形質をコードする遺伝子が常染色体上にある場合と、各種遺伝システムの性染色体上にある場合のいずれもを取り扱えるようにした。さらに雌雄出生性比を記述するパラメーターを追加することで、出生性比が雌雄いずれかに偏る生物集団も分析対象に含めることができるようになった。改定モデルを用いて、ショウリョウバッタ逃避時の発音行動の進化動態を分析した。ショウリョウバッタではメスは全個体が逃避時に発音せず、オスは一部個体が発音する。性比が1対1の生物集団では、発音にかかるコストがメスで大きくオスで適度な量であれば前記状態が進化的に安定であり到達可能であることが Kuga, Seki, et al. (2021) で示唆されていたが、オスのコストの「適度な量」の範囲は比較的狭いものであった。改定モデルでは、「適度な量」の範囲が、性比を1対1からオス側に偏らせると広がり、メス側に偏らせるとより狭まることが示された。ショウリョウバッタでは出生性比がオス側に偏っている可能性があり、ショウリョウバッタでオスの多型が保たれていることと改定モデルの予測は符合する。研究経過は第32回日本数理生物学会大会(オンライン)で口頭発表された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今回開発された改定モデルは様々な遺伝システムに適用することができ、また形質をコードする対立遺伝子の種類を際限なく増加させることができる。性的二型や同性内多型のある形質を記述するためには最小でも、常染色体や両性がもつ性染色体(X染色体やZ染色体)に、メスにのみ形質を発現させる対立遺伝子、オスにのみ形質を発現させる対立遺伝子、両性で形質を発現させる対立遺伝子と、形質をコードしていない対立遺伝子の4種類を同時に組み込む必要があると考えられる。これら4対立遺伝子を組み込んだ結果、数理モデルが複雑化し、これまでの代数的解析には限界が生じた。そこで数値計算によってさらなる分析を進めるために、数値的求解を専門とする博士研究員を雇用し、大学院生とともにパラメーター定義域内での包括的分析を進め、代数的解析では得られなかった安定な形質多型状態があることを発見する等の成果をあげることができた。 なお改定モデルは、新型コロナウイルス感染症の世界的流行前に立案された研究計画には含まれておらず、2022年度中の出版に至らなかったことは研究の遅れには該当しない。
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Strategy for Future Research Activity |
延長された1年の研究期間中に、数値計算による改定モデルの分析を完了させる。研究成果を生態学者・動物行動学者が多く参加する学会で発表しフィードバックを得、年度内に投稿・出版する。
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Causes of Carryover |
学会がオンライン開催になったため、発表は行ったが旅費を執行しなかった。さらにCOVID-19感染拡大にともなう研究計画変更により、当該年度の調査旅行を中止し、次年度に投稿する見通しとなった追加研究論文の出版経費に充てることとする。
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