2019 Fiscal Year Research-status Report
神経変性疾患に見られる細胞質内タンパク質凝集によるRNA動態制御異常の解析
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19K16259
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
安田 恭大 広島大学, 統合生命科学研究科(理), 助教 (40816344)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | RNA局在 / ALS / 翻訳制御 / FUS / タンパク質凝集 / VCP / LLPS / ATP |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度はまず、光反応性Haloタグ基質を用いて、変異により凝集体形成が促進されたFUSと野生型FUSとで相互作用が変化する因子の探索を行った。結果として、FUS変異の有無に際してFUSとの相互作用が変化するいくつかのタンパク質の同定に成功し、その一つとしてATP分解酵素VCPを同定した。VCPは、野生型FUSとの相互作用に比べて、変異FUSとの相互作用が減少していた。 次に、VCPとFUS凝集の関係性の解析を進めた。具体的にはFUS凝集体の性質とVCP発現レベルの関係性の解析や、局在RNAのライブイメージングおよび細胞内の翻訳活性の可視化を用いたRNA動態の解析を行った。本年度の実験では、これまでに申請者が当該分野の研究で使用してきたNIH/3T3細胞を用いて遂行した。成果としてまず、VCPとFUSの相互作用の存在が凝集体ダイナミクスを低下させることを示唆する結果を得た。FUS凝集体のダイナミクスを変化させる要因を明らかにするため、VCPのプロテアソームとしての機能の阻害剤であるEeyarestatin Iを用いた実験や、ATP分解酵素としての側面に着目したATP枯渇処理実験などを行った結果、FUS凝集体のダイナミクスを変化させているのはプロテアソーム経路に関わる機能ではなく、ATP分解酵素そのものとしての側面が強いことを明らかにした。またRNA動態に関しては、VCPがFUS凝集体形成によって引き起こされる異所的な翻訳活性化やRNA局在の異常を緩和することを明らかにした。これらのことは、VCP が本来、ATP濃度調整を介してFUS凝集を制御しており、それが正常なRNA動態制御につながっている可能性を示している。これまでVCPは、プロテアソーム経路に着目して、ALSとの関わりが議論されてきた。本研究結果はそれら先行研究とはまた別の、新たな病態形成経路の解明につながる結果である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度に得られた結果は、ALS関連凝集体の形成制御に関わり、またその後のRNA動態にも影響する原因因子の特定に大きく近づいたものであり、本申請研究で目標としていたRNA動態制御異常の原因因子と、そのメカニズム解明に直接的に関与する成果である。そのため、研究の進捗としては申し分ないものであると思われる。 しかしながら、申請内容に記載した、iPS細胞を用いた実験には着手できておらず、この点において、全く計画通りという訳ではない。また、申請書内で予備データとして扱っていた、RNA局在と翻訳活性の関係性については、その後のデータの蓄積および解析の結果、当初の予想ほど、対象RNAの局在と翻訳活性の関係性が明確でないことが明らかとなった。この点で、翻訳活性そのものではなく、局所的に翻訳されることで起こるタンパク質の翻訳後修飾や、インタラクトーム変化に着目した研究へとシフトする必要が出てきた。 総合して、予定通りの道筋とは言えないが、掲げた目標へは順調に進んでいると考える。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、VCPがFUS凝集によるRNA動態異常を回復させるメカニズムを掘り下げる。また、FUS凝集により局在が異常になるRNAの翻訳産物について、その翻訳後修飾やインタラクトーム解析を行うことで、RNA局在のALS疾患発症への関与を改めて解析する。また、FUSとの相互作用がFUS変異により変化する候補因子は他にも同定できているため、それらの機能解析も進める。本年度行った実験結果も含め、iPS由来の運動神経を用いた実験にも着手する予定である。
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Causes of Carryover |
大きな要因は、1)質量分析を外部委託する資金を計上していたが、共同研究を行ったソウル大学で分析を請け負っていただけ無支出であったこと、そして2)iPSを用いた研究に着手できておらず、その分の経費を未使用であったこと、である。 次年度では、新たに質量分析を行う実験を計画しており、またiPS実験にも着手する予定であるため、主にそれらの費用として使用する。また、実験の遂行上、蛍光顕微鏡の配備が必要となってきたため、その購入のための費用補助(対物レンズ等の購入)にも充当したい。
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Research Products
(7 results)