2020 Fiscal Year Research-status Report
ヒト脳スフェロイド内のグリア挙動に着目したストレスに起因する発達障害病態の解明
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19K16263
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Research Institution | National Institute of Advanced Industrial Science and Technology |
Principal Investigator |
小高 陽樹 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 生命工学領域, 研究員 (40831243)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | iPS細胞 / ミクログリア / 脳オルガノイド / グルココルチコイド / 発達障害 |
Outline of Annual Research Achievements |
近年、iPS細胞の培養・分化誘導技術の進歩に伴い、ヒトiPS細胞から作製した、脳の立体組織構造を有する球状オルガノイド(ヒト脳スフェロイド)が多数報告されるようになっている。ヒト脳スフェロイドは、ヒト脳における立体組織構造の発生過程をin vitroで再現できるため、脳疾患への新たなアプローチ法として注目されている。一方で、これまでの脳スフェロイドには、その細胞起源の違いのため、ミクログリアが含まれておらず、ヒト脳の発生におけるミクログリアの役割は見過ごされてきた。 本研究課題では、ヒトiPS細胞から脳スフェロイドとミクログリア前駆細胞をそれぞれ誘導し、共存させて培養することで、ミクログリアを含有する脳スフェロイド(ミクログリア-ヒト脳スフェロイド)を作製する。このミクログリア-ヒト脳スフェロイドに対し、神経発達障害の環境要因となるグルココルチコイドの曝露を行い、ミクログリアと神経系細胞に表出する表現型の異常を解析する。本年度は、本研究計画を遂行する上でネックとなっていた、iPS細胞由来ミクログリアの低い収量を改善するため、分化誘導法の改善に取り組んだ。McQuadeらの報告した分化誘導法を基にプロトコルを再構築することで、98.6%がCD43陽性のミクログリア前駆細胞を得ることができた。さらに、ミクログリア前駆細胞の分化誘導を行い、IBA1陽性のミクログリアを得ることができた。本プロトコルでは、以前のものと比べ、ミクログリアへの分化誘導中においてもミクログリア前駆細胞の活発な細胞分裂が確認され、最終的に得られる細胞の収量が大きく改善した。現在、本手法で作成したミクログリアを用いて、ミクログリア-ヒト脳スフェロイドの作成を行っている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
昨年度に行った、ミクログリア前駆細胞と脳スフェロイドの共培養実験から、ミクログリア前駆細胞はヒト脳スフェロイドへの浸潤能に乏しいことが分かった。そこで、ミクログリアへ分化誘導したのちに脳スフェロイドとの共培養を実施することとした。しかし、現在の分化誘導法は、ミクログリア前駆細胞からミクログリアへの分化誘導効率は高いものの、収量に乏しく、実験に必要な細胞数をそろえることが困難であった。そこで、本年度は、ミクログリアの分化誘導法の改善を行った。McQuadeらが報告した分化誘導法を基にしたプロトコルにより、分化誘導を行ったところ、高い分化誘導効率はそのままに収量を大きく改善することに成功した。これは、今回の手法で作成したミクログリア前駆細胞がミクログリアへ分化する過程において活発に細胞増殖を行うことに起因する。 今年度は、申請者の研究室の異動に加え、緊急事態宣言に伴う実験の中断が重なり、目標としていたミクログリア-ヒト脳スフェロイドの解析までを行うことができなかった。現在、分化誘導したミクログリアを使い、ヒト脳スフェロイドとの共培養実験を実施している。
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Strategy for Future Research Activity |
まず、ミクログリア-ヒト脳スフェロイドの培養系を確立する。そのために、現在共培養を行っているミクログリアとヒト脳スフェロイドの組織解析を行い、ミクログリアの浸潤を確認する。その後、グルココルチコイドの曝露実験を行い、神経前駆細胞の増殖、神経細胞の分化・成熟、ミクログリアの活性化等に対する影響を評価する。そしてミクログリアの有無がグルココルチコイド曝露による障害に対し与える影響を精査する予定である。
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Causes of Carryover |
本年度は、新型コロナウイルスに伴う緊急事態宣言による研究活動の中断と申請者の研究室の移動が重なり、当初の予定通りに研究計画を遂行することができなかった。そのため、培養試薬や抗体といった消耗品とRNA-seqなどの外注費用を翌年に繰り越し、使用する予定である。
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Research Products
(3 results)