2020 Fiscal Year Research-status Report
単一神経細胞の動態追跡による神経回路モジュール構築機構の解明
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19K16281
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Research Institution | National Institute of Genetics |
Principal Investigator |
中川 直樹 国立遺伝学研究所, 遺伝形質研究系, 助教 (30835426)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 神経科学 / 神経回路形成 / 生体イメージング / バレル皮質 / 単一細胞動態追跡 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、マウス体性感覚野においてヒゲ触覚情報処理を担うバレル型神経回路モジュールをモデルとして、感覚情報を受ける大脳皮質第4層神経細胞(L4神経細胞)がモジュールごとにグループ化し、空間的・機能的に独立した単位回路を構築する機構の解明を目指す。2020年度は、前年度に確立した生体イメージング技術を用いて、L4神経細胞のバレル形成過程での動態追跡を行い、基本的な細胞移動パラメータを明らかにすることを目標とした。 複数のマウス個体から、バレル形成期である生後3~6日目にかけて24時間間隔でイメージングを行い、バレル野におけるL4神経細胞の空間分布を座標化した。細胞移動パラメータの算出には、バレル形成に寄与する能動的な細胞移動と、成長に伴う大脳皮質の拡大による受動的な細胞移動とを区別し補正する必要がある。接線方向(脳表面に対して水平な方向)への移動がほとんどないと考えられる上層の第2/3層神経細胞の座標をもとにL4神経細胞の座標変化(細胞移動)を解析した。その結果、L4神経細胞のバレル形成期の平均移動距離は10μm弱であった。このことから、バレルモジュールの特徴であるバレル壁(細胞密度の高い領域)は、個々のバレルの境界を越えて移動するような長距離移動ではなく、局所的な移動の総和として形成されることが示唆された。各バレルの境界線付近の細胞に着目して移動の方向性を解析したところ、6割程度の細胞はバレル境界線に向かって移動し、バレル壁の形成に寄与すると考えられた。一方で、4割程度の細胞はバレル境界線から遠ざかる方向に移動していた。これは、バレル壁の形成がバレル境界線に向かう移動だけで単純に説明できる現象ではないことを示唆する興味深い知見である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
現在までに、本研究で確立した「バレル野L4神経細胞の生体内動態追跡法」を用いて複数のマウス個体からイメージングを行い、バレル形成期のL4神経細胞の空間座標データを取得した。さらに、独自に考案した細胞位置補正法によって、成長に伴う大脳皮質の拡大による受動的な座標変化と、バレル形成に寄与する能動的な細胞移動とを区別し、基本的な細胞移動パラメータの解析を進めた。 一方で、本年度のもう一つの目標であった、感覚入力を阻害した条件での動態追跡による細胞移動パターンと神経入力との因果関係の解明については、計画よりも遅れている。その理由は下記の通りである。当初は、神経入力阻害の方法として、ヒゲの毛根焼灼による物理的方法と、神経伝達に重要なNMDA型グルタミン酸受容体の遺伝子欠損を用いる予定であった。しかしこれらの方法はどちらも、大脳皮質における視床皮質軸索の空間パターン(バレルごとのクラスター)を変化させると考えられる。上述のL4神経細胞の位置補正法は、視床皮質軸索クラスター(TCA-GFPマウスで可視化)の位置情報が必要であるため、別の神経入力阻害方法を検討せざるを得なかった。新たな阻害方法として、内向き整流性カリウムチャネルKir2.1をL4神経細胞に過剰発現させて活動電位の発生を抑制することとした。これは視床皮質軸索パターンには影響しないと予想される。必要な発現プラスミドの作製は完了している。今後は、まずKir2.1過剰発現が実際にL4神経細胞によるバレル壁の形成に異常をきたすかどうか、また視床皮質軸索パターンに影響しないかどうかを組織学的解析によって確認する。その後生体イメージングで活動抑制による移動パラメータへの影響を解析する予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究課題は、申請時は2020年度で終了する予定であったが、既述の進捗状況や新型コロナウイルス感染拡大防止の観点から実験規模を全体的に縮小せざるを得なかったことを鑑み、補助事業期間を1年間延長することとした。 2021年度は、サンプルデータの追加取得と細胞移動パラメータの詳細な解析を進め、バレルモジュール構築に重要な神経細胞の分布再編ダイナミクスの解明を目指す。またKir2.1過剰発現によってL4神経細胞の神経活動を操作した条件下で生体イメージングを行い、L4神経細胞の細胞移動パターン形成における神経活動の役割の解明を進める。 また異なる観点として、バレル構造(細胞密度の高いバレル壁と、細胞密度の低いバレル中心部)の構築には、L4神経細胞の細胞移動に加えて、新生仔期の領域特異的な細胞死が関与する可能性がある(バレル中心部の細胞死の頻度が相対的に高い、など)。そこで2021年度は、本研究で確立したL4神経細胞の動態追跡イメージングを応用して、領域特異的な細胞死の解析も並行して行う。イメージング期間中に細胞死を起こす細胞(消失する細胞)について、発生頻度および位置情報(バレル壁か中心部か)を解析する。またバレル野における細胞死の発達段階での経時変化について、アポトーシスマーカーを用いた組織染色によって明らかにする。 以上のように、細胞移動と細胞死の両側面から解析を行い、新生仔期の大脳皮質において空間的・機能的に独立した単位回路が構築される機構の理解を目指す。
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Causes of Carryover |
次年度使用が生じた理由:物品費については実験の効率化により当初予定していた金額(2019年度未使用額と2020年度請求額の合計)より下回った。旅費については、参加を予定していた日本神経科学大会(神戸)をはじめとした各種学会が新型コロナウイルス感染拡大防止の観点から中止あるいはオンライン開催となったため、予定していた金額より下回った。
使用計画:次年度の使用額は、当初予定していた計画、および追加で計画した細胞死解析の遂行に使用するとともに、研究成果の発表を積極的に行う。
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