2020 Fiscal Year Research-status Report
気流感覚刺激から複数情報の読み出しを可能にする昆虫神経システムの予測と実装解明
Project/Area Number |
19K16283
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Research Institution | Mie University |
Principal Investigator |
設樂 久志 三重大学, 医学系研究科, 助教 (00812736)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 昆虫 / 気流刺激 / 方向選択性 / コーディング / 電気生理学的手法 / 行動 / 神経科学 |
Outline of Annual Research Achievements |
方向性を持った刺激は、刺激方向や速度の情報が混在して神経応答として表現される。これら複数の刺激パラメータが動物の神経細胞上でどの様に表現され、最終的に行動として出力されるのか明らかにするために、コオロギの気流逃避行動に着目して実験を行う。コオロギの気流感覚系は最終腹部神経節内にある比較的少数の巨大介在ニューロン群(Giant interneurons: GIs)によって検出され脳へ情報が運ばれる。GIsの中でも特に気流刺激に応答性を示す6つのGIsは、各GIsで刺激の速度や刺激が来る方向に依存して応答性が異なる。例えば、GI 10-2やGI 10-3は気流刺激速度の大きさに関わらず、一定の方向選択性を持つ。一方で、MGIの方向選択性は他のGIsに比べて低いものの気流刺激の速度に依存して応答が大きく変化する。こうしたGIsの応答性だけではなく解剖学的な知見やGIsを操作した行動実験の結果を組合せることにより、外界刺激を読み出す神経回路の予測からその実装までを明らかにする。 本年度は、デコーディング解析を行うことによって、気流刺激の方向と速度をそれぞれ読み出すGIsのグルーピングを行った。そして、GIs上でどの様に刺激パラメータが表現されているかの予測と行動実験の比較を行い行動出力とGIsの応答の関係を調べた。また、刺激に対する神経応答性を調べるだけではなく、蛍光色素によるGIsの染色も行い最終腹部神経節で受け取った情報が脳のどの位置へ運ばれているのか調べた。以上の結果から、機能的・解剖学的に外界刺激の複数のパラメータを読み出す神経システムを明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は先ずデコーディング解析と行動実験の結果から、各GIが気流刺激の速度と方向をどの様なGIsの組合せで読み出し行動出力へつなげているのか調べた。気流刺激の速度もしくは方向を予測することのできるGIsの組合せを調べることで、コオロギは気流刺激速度と方向をそれぞれ別のGI群で読み出している可能性が示された。コオロギは気流刺激の速度に依存して非線形で応答確率を上昇させるが、気流速度の読み出しに関わると考えられるGIsの神経活動も速度に依存して同じように非線形に上昇することがわかった。一方で、コオロギは気流速度の大きさに関わらず、刺激に対して反対方向へ逃避するが、刺激方向を検出していると考えられるGIsの応答も気流刺激の速度に依存せず正確に方向を読み出すことが可能であった。これらの行動と神経活動の比較から得られる知見は、予想されるGIsの情報読み出しのシステムが、コオロギに実装されていることを支持する。 また、電気生理学的手法やエレクトロポレーション法を利用して各GIを蛍光色素で染色しその構造を調べた。気流刺激の速度と方向を読み出すGIsは脳内の同じ領域に軸索を投射している一方で、脳内の異なる領域に軸索を伸ばすGIsも発見された。また、胸部神経節での軸索投射もGIs毎に異なり、一部のGIでは非常に特徴的な側枝を観察することができた。各GIsの機能的な特徴とあわせると、解剖学的な特徴は機能学的特徴を支持するものであり、GIsの機能的な面と解剖学的な面の関係を明らかにすることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
現在GIsの機能的・解剖学的特徴と行動実験によるデータから、気流刺激の速度と方向の刺激パラメータをそれぞれどの様なGIsの組合せで読み出し、行動出力を行っているのか明らかにしてきた。これらの結果は一つの感覚刺激から複数の刺激パラメータを読み出す神経システムのモデルを提示するが、実際にコオロギが予測されるシステムを実装しているかまでは明らかにされていない。そこで、GIsの破壊もしくは、GIsへの入力の破壊実験によって、それぞれのGIsの役割が実際に予想されているものかどうかを調べていく。具体的には特定のGIを欠損させることで、そのGIが担っていると考えられる機能が失われたような行動出力が見られるか調べていく。 また、先行研究からコオロギはGIsから脳へ送られる情報を処理することで、刺激に応じた適切な行動を行うことが考えられている。一方で、GIが胸部神経節への特徴的な軸索投射を行っていることから、GIsから胸部神経節へ入って行く情報も同時に重要であることが考えられる。GI 9-2とGI 9-3は刺激速度が非常に大きい時には応答する特徴と、脳内の軸索投射が他のGIsと比較して異なるという特徴を持っている。また、胸部神経節では他のGIsと異なり非常に大きな神経軸索を持つ。したがって、GI 9-2やGI 9-3は他のGIと異なる役割を持って気流刺激の情報を読み出し行動へ結びつけている可能性がある。例えば、非常に強い刺激に対して素早く反射的に逃げるために脳を介さない逃避行動が存在し、これをGI 9-2やGI 9-3が担っている可能性が考えられる。この様に、特に胸部神経節への直接的な働きかけの可能性を考え、出力部分である逃避行動の脚の動きなどをより詳細に調べることで神経機能と行動との関係を明らかにしようと考えている。
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