2021 Fiscal Year Research-status Report
経験依存的な行動調節を制御する分子・神経機構の包括的解明
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19K16286
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
佐藤 博文 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 特任助教 (40779435)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 線虫 / 行動可塑性 / 神経回路 / ナビゲーション |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題は、①感覚入力から行動出力までを結ぶ神経回路の動態の解析、②感覚神経―介在神経間のシナプス極性を反転させる機構の解明、③経験依存的な神 経応答を制御する細胞内分子機構の解明、の大きく3つの内容から構成されている。 ①について、本年度は前年度に引き続き各種変異体を用いて得られたデータを用いてさらに詳細な解析を行った。また4Dイメージングシステムによって得られた実験データについても解析を行い、刺激に対する各神経の活動の変化を全脳レベルで議論することが可能になった。さらに本研究課題で開発されたトラッキングイメージング系を用い、これまでに自由行動中の神経活動が測定されていなかった神経についても塩濃度変化刺激に対する活動の変化を観察することができた。 ②について、前年度までに得られていた知見を基に、具体的にどの受容体が寄与するか、また行動への影響についても詳細に調べた。今年度はさらに複数の受容体の変異体について、経験依存的な神経活動と行動の変化の測定を行い、シナプス極性反転機構に必要な受容体の絞り込みを行った。また受容体の発現量や局在を観察するための線虫株の作製と測定を行った。 ③について、先行研究から、細胞内で機能するシグナル伝達物質であるジアシルグリセロールを介する経路の活性が、線虫の塩嗜好性を制御することが示唆されている。また、感覚神経ASER内のジアシルグリセロール量は、塩濃度変化刺激によって変化することが示唆されている。そのため、ASER神経の細胞内ジアシルグリセロール量の変化が経験依存的に変わるかどうかを観察した。結果として、条件付け時の塩濃度によらず、塩濃度低下に対しては常に細胞内ジアシルグリセロール量が増加することが分かった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題で設定された目標は、当初の想定以上に進展した部分がある一方で、予定通り進んでいない部分もあるが、全体としてはおおむね想定の範囲内で進行している。今年度は、本研究課題で得られた実験結果が論文として出版され、多くの反響を得ている。また本研究課題の遂行のために作製された実験系や測定システムなどについても、論文として出版され、研究代表者のみならずコミュニティ全体の研究活動に貢献することが期待される。以上の理由から、本研究課題は順調に進展していると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の推進方策として、まずはこれまでの研究を発展させた内容の研究を行うとともに、得られたデータを基にさらに詳細な解析を行う予定である。また、これまでは線虫を主に用いていたが、今後はそれだけでなくマウスなどより高等な動物も対象にすることを検討している。これにより、動物全般に共通する普遍的な行動調節機構が明らかになることが期待される。線虫に関する実験や解析については特段大きな障害はないと思われる。他の動物を対象とした実験と解析については、適宜専門とする研究者との連携をとる予定である。
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Causes of Carryover |
本年度は新型コロナウイルスの影響が依然として強く残っており、そのため当初の想定よりも実験や出張などでの支出が減少することになった。しかしその分次年度ではより多くの費用が発生することが想定される。また本研究課題においてこれまでに得られた成果を鑑みた結果、もう1年研究を継続することによりさらに飛躍的な成果が得られるとの確信に至り、そのため1年の期間延長を申請した。次年度ではこれまでの研究の延長となる実験のみならず、高等動物を対象とした実験などより発展的な研究を行う計画であり、それらのために助成金は使用される予定である。
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Research Products
(3 results)