2019 Fiscal Year Research-status Report
Contextual information represented by dynamic activity in the hippocampal engram
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19K16305
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Research Institution | Okinawa Institute of Science and Technology Graduate University |
Principal Investigator |
田中 和正 沖縄科学技術大学院大学, 記憶研究ユニット, 准教授 (10772650)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 海馬 / 記憶エングラム / 記憶痕跡 / 文脈記憶 / c-Fos / 場所細胞 / 最初期遺伝子 |
Outline of Annual Research Achievements |
海馬はエピソード記憶など過去の体験についての記憶に必須の脳部位である。しかしながら、その一般的な役割については十分に明らかにされていない。近年、マウスを用いた研究によって海馬はそうした記憶を実現するための痕跡を内包していること、そしてその記憶痕跡は一種類ではなく、コードする情報の種類や表現様式の異なる複数の痕跡が混在していることが分かってきた(例. Tanaka et al., Science 2018; Josselyn and Tonegawa, Science 2020)。特に、記憶記銘時の最初期遺伝子c-Fosの発現により定義される所謂記憶エングラムは、動物が経験する文脈についての情報をコードしているとみられている。本研究では、記憶エングラムがコードしうる文脈記憶の境界条件を探ることにより、記憶に対する海馬のより一般的な機能の理解を目指す。具体的には、空間内の特定の位置が特別な意味を持つときの文脈情報としての位置情報や、動物の内部状態についての情報などが文脈記憶として記憶エングラムにコードされるのか、そしてどのように表現されるのかを探る。 本会計年度は、1) マウスを用いた行動実験の確立、2) 行動実験遂行中マウスの海馬CA1領域からのCa2+イメージングによる神経活動データの獲得を目指した。目的1は順調に進捗しており、目的2は計画の若干の変更を行った(進捗状況および今後の推進方策を参照)。2020年度は沖縄科学技術大学院大学において記憶研究ユニットを率いることになり、より大規模な研究の遂行が期待される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究計画では、記憶エングラムが示す不安定な活動の中にコードされる文脈情報の境界条件を探る。この目的のため、認知的な負荷の高い行動実験を設計し、その課題遂行中のマウスの海馬CA1錐体細胞においてminiscopeを通したカルシウムイメージングを行い、様々な様式の文脈情報が記憶エングラムの活動パターンから読み取れるかどうかを調べる。まず、文脈を定義する上で特定の位置が特別な意味を持つとき、記憶エングラムが位置情報を安定にコードするのかどうかを決定するため、空間を探索するマウスに報酬が得られる位置と罰が与えられる位置を学習させる課題を設計した。この課題は比較的容易であり、マウスはわずか1日の学習期間でも、その後のテストで報酬位置を優位に探索し、罰位置を優位に避けた。次に、外部世界の情報によって定義される法則性が文脈として海馬にコードされうるのかを決定するため、上記行動実験に改良を加えた。この実験では、空間探索中の聴覚刺激の有無によって報酬と罰の位置が変化する。マウスにとってこの課題の学習にはより長い時間を要するようであり、十分な学習が成立するのに数日の時間を要した。c-Fos-tTAシステムを用いた記憶エングラムの標識には、学習が一日以内に成立するのが望ましいため、学習効率を高めるための実験条件の最適化を行っている。 行動実験と並行して、マウス海馬CA1からのminiscopeを通したCa2+イメージングを行った。しかしながらそのacquisition systemにバグがあることが分かり、研究室独自に新しいacquisition systemを開発および公開した(https://zenodo.org/record/3466180#.XpB2VS_CPow)。今後はこうしたより確かな方法を用いてCa2+イメージングを行う。 これらの状況から研究計画は概ね順調に遂行していると考える。
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Strategy for Future Research Activity |
目的1に対しては、行動実験の条件最適化に加えて、内部情報、具体的には概日時間が文脈情報として海馬記憶エングラムにコードされるかどうかを決定する行動実験を行う。この実験では、実験が朝行われるか夜行われるかによって報酬位置と罰位置が変化する。この実験もマウスにとっては難易度が高いと思われ、現在条件最適化中の行動実験から得られる知見が役立つであろう。 目的2に対しては、神経回路行動生理学研究チームによって開発公開されたacquisition systemを用いたデータ獲得と解析を進めていく。また、miniscopeにおける予想外のトラブル(電子基板の過剰発熱やdata transfer時の劣化など)に対する予備的アプローチとして、Inscopix社のnVistaとIMEC社のNeuropixels probeを用意し、代替Ca2+イメージングデバイスと多細胞からの細胞外記録法二つの方法を用意することで研究遂行に遅れが出ない方策を取る。 その後、上記行動実験およびCa2+イメージングを組み合わせ、c-Fos-tTAマウスを用いた記憶エングラムの活動記録を進めていく。 2020年度は、研究室主宰者として沖縄科学技術大学院大学において記憶研究ユニットを率いてより大規模かつ効率的に研究を進めていく。
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