2019 Fiscal Year Research-status Report
スルファターゼの変異で起こるライソゾーム病に対するボロン酸を用いた治療薬の創製
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19K16319
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Research Institution | Kitasato University |
Principal Investigator |
唐木 文霞 北里大学, 薬学部, 助教 (80756057)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | スルファターゼ / ライソゾーム病 / ファーマコロジカルシャペロン / ボロン酸 / ムコ多糖症 |
Outline of Annual Research Achievements |
リソソーム酵素の変異は酵素の安定性を損なう. その結果, 酵素が欠損し機能が失われると, ライソゾーム病と呼ばれる重篤な疾患を発症する. 本研究では, ライソゾーム病の中でもスルファターゼの変異に起因する疾患に注目し, 変異スルファターゼに結合することで機能を回復させる化合物の創製を目的とする. 酵素の基質結合部位に結合する化合物では, 酵素の安定性を回復させる作用 (プラスの作用)と, 酵素阻害作用 (マイナスの作用)が競合し得る. しかし, リソソーム内は酸性であるため, 酸性よりも中性でスルファターゼに結合しやすい化合物を用いれば, 安定性を回復させる作用が酵素阻害作用を上回ると期待される. 予備検討の結果, フェニルボロン酸類にこのような性質が認められたため, 本研究ではボロン酸類の合成とスルファターゼに対する作用の検討を行う. 無保護のボロン酸は合成上の取り扱いが難しいため, ボロン酸部位の保護が可能か検討した. その結果, ボロン酸をDABO boronateに変換しても, スルファターゼに対するpH依存的な結合能が保たれたため, 種々ボロン酸のDABO boronateを合成することとした. 生体内には複数種のスルファターゼが存在するため, 将来的にはスルファターゼ間の選択性を議論する必要が生じる. 標的タンパク質に対する選択性を付与する上では, 飽和炭素に富んだ骨格のほうが有利だとされていることから, アルキルボロン酸類の結合能を評価した. これらがフェニルボロン酸よりも良い結果を与えたことを受けて, アルキルボロン酸およびそのDABO boronateの合成を試みたが, 結晶性の乏しさゆえに合成は困難であった. したがって, 今後はフェニルボロン酸類のDABO boronateを合成し, 構造と結合能の関係を調べる方針である.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
化合物のスルファターゼに対する結合能は, スルファターゼを阻害する作用と相関すると考えられる. 結合能を直接評価するよりも, 阻害作用を評価するほうが容易であることから, 本研究では阻害作用を評価し, これを結合能の指標として用いている. スルファターゼに対する阻害作用は, 既知の4-メチルウンベリフェリルサルフェートという蛍光基質を用いて評価しているが, この評価系には感度およびスループットが低いという課題がある. 化合物の活性評価をより効率的に進めるために, ウンベリフェロンとは異なる蛍光団をもつ新たな蛍光基質の創製を試みたものの, そのような新規評価系の構築には至らなかった. 研究を計画した当初は, フェニルボロン酸類がpH依存的にスルファターゼを阻害する理由を初年度に解明するとしていたが, 上記の検討を行っていたため解明には至っていない. しかし, ボロン酸の保護基の最適化やアルキルボロン酸類の合成の検討については遅滞なく遂行できた. さらに, 遺伝子組み換え実験系の立ち上げが完了し, arylsulfatase A (変異により異染性白質ジストロフィーというライソゾーム病を引き起こすスルファターゼ)の発現ベクターの構築にも着手できたことから (2) おおむね順調に進展している。を選択した.
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Strategy for Future Research Activity |
フェニルボロン酸類がpH依存的にスルファターゼを阻害する理由を明らかにすることは, 変異酵素の安定性を回復させる作用 (プラスの作用)と酵素阻害作用 (マイナスの作用)を分離する上で非常に重要であるため, 今後はこの理由の解明に努める. 具体的には, 種々の置換基を有するフェニルボロン酸類を合成し, 酸性および中性におけるスルファターゼ阻害作用に関する構造活性相関研究を行う. この結果から, ボロン酸類がpH依存的な阻害作用を示す理由について仮説を構築し, それを裏付けるための実験を行う. その後, ここで得た知見に基づいて, 酸性よりも中性で強い阻害作用を示すボロン酸類の設計と合成を試みる. 次に, 上記で創製したボロン酸類が, 変異により損なわれたスルファターゼの安定性と機能を回復させるか調べる. スルファターゼの一種で, 変異によりムコ多糖症VI型というライソゾーム病を引き起こすarylsulfatase Bについては, 疾患の原因となる変異体の発現細胞を構築しつつある. これが完了した後に, 創製したボロン酸類の, 酵素活性および安定性に対する作用を検討する. さらに, ムコ多糖症VI型以外のライソゾーム病の原因となるスルファターゼについても評価系を構築し, ボロン酸類の作用を調べる. スルファターゼはリソソーム以外の器官にも存在し, これらは中性付近に至適pHをもつ. 創製したボロン酸類がこれらのスルファターゼを阻害した場合には副作用の発現が懸念されるため, 将来的にはライソゾーム病の原因となるスルファターゼに対する選択性を付与する必要がある. このような選択性の評価を可能にするために, 非リソソームスルファターゼであるarylsulfatase Cおよびarylsulfatase Eに対する阻害作用の評価系の構築を行う.
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Causes of Carryover |
消耗品類の購入に際し, 各社のキャンペーンを利用して価格を抑えた結果, 次年度使用額が生じた. 来年度分として請求した助成金と比較して大きな額ではなく, 当初予定していた研究計画に沿って使用する.
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