2020 Fiscal Year Research-status Report
Development of chemoresistance-overcoming agent targeting p62-Keap1-Nrf2 axis
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19K16322
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
安田 大輔 慶應義塾大学, 薬学部(芝共立), 特任講師 (40736097)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | p62/Sqstm1 / Nrf2 / Keap1 / 肺癌 / A549 / PPI阻害剤 |
Outline of Annual Research Achievements |
p62はタンパク質間相互作用 (PPI) によりKeap1を抑制し、生体防御因子Nrf2を活性化する。この機構は、癌細胞の増悪や抗癌剤耐性と密接に関与する場合がある。研究代表者らは、独自に見出したp62-Keap1 PPI阻害剤 2-アセトニル-1,4-ビス[(エトキシベンゼンスルホニル)アミノ]ナフタレン (K67) の構造を基にさまざまな誘導体を合成し、その抗癌剤耐性を効果的に抑制する化合物の創成に着手している。 前年度までに合成した、ナフタレン環2位の側鎖にアセトニル基ではなくアセトアミド構造を有する化合物群は、ヒト肝細胞癌株Huh-1に対し肝細胞癌に適応のある分子標的薬ソラフェニブ・レゴラフェニブ及びレンバチニブの抗癌効果を増強する作用を示した。今年度はそれらの化合物を他のヒト組織由来の癌細胞株に適用し、その汎用性を評価することとした。 Nrf2を過剰過剰発現することが知られているヒト非小細胞肺癌細胞株A549を用いて、各種抗癌剤とPPI阻害剤の組み合わせによる抗癌剤感受性増強効果を検証した。その結果、アミド誘導体のうち一種が強力なドキソルビシン感受性増強効果を示した。また当該化合物において単独曝露での細胞毒性は見られなかった。ドキソルビシンはさまざまな癌において広く用いられる化学療法剤であり、誘導体が各種癌細胞における抗癌剤感受性増強効果を示すことが期待される。またアミド誘導体は従来のアセトニル誘導体と比べ代謝安定性や水溶性も改善しており、今後の試験においても積極的に用いるべき化合物として選定した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は新たな試みとして、Nrf2-addicted cell lineとされるヒト非小細胞肺癌株A549を用いて、これまでに合成したリン酸化p62-Keap1 PPI阻害剤の抗癌剤感受性増強効果を検証した。 数種の抗癌剤とPPI阻害剤をA549に添加し所定時間培養した結果、変異EGFR型チロシンキナーゼ阻害剤のゲフィチニブ、エルロチニブ、アファチニブおよびダコミチニブに関しては、PPI阻害剤添加による抗癌効果の増強は観察できなかった。これはA549が変異EGFR陰性であり、もともとの分子標的薬の効きが弱いことに起因すると考えられる。一方で、ドキソルビシン (0.5 μM) を添加した場合では、PPI阻害剤なしの細胞生存率は24時間の曝露で65%程度だったのに対し、PPI阻害剤ありの条件での細胞生存率は40~25%程度にまで低下した。この際、PPI阻害剤単独での細胞生存率の影響は見られなかった。PPI阻害剤の中で最も有効性が高かったのはナフタレン環側鎖にモノメチルアセトアミド構造を持ち、スルホンアミドとしてエトキシベンゼンスルホニル基を有する誘導体であった。この結果は、当初の研究計画に含まれる、肝細胞癌株以外での癌細胞での抗癌剤感受性増強効果の発揮を達成したものであり、研究計画は順調に進展していると考える。 また、A549での活性が高かったアミド化合物は、ヒト肝ミクロソーム中での代謝に対する安定性が従来のアセトニル化合物よりも向上し、水溶性もわずかながら改善したことから、より医薬品シードとしての有用性が高いと考えられた。
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Strategy for Future Research Activity |
研究開始時に目的としていた誘導体の最適化はほぼ達成したと考え、今後はより多くのNrf2-addicted cell lineに対する抗癌剤感受性増強効果を評価する。 肺癌細胞においては、変異EGFR型チロシンキナーゼ阻害剤感受性の細胞株と非感受性の細胞株 (正常細胞に見立てたもの) を共培養し、チロシンキナーゼ阻害剤とPPI阻害剤を添加して、非感受性の細胞にはダメージがなく、感受性の細胞のみを強力に死滅させる応用的な条件を探索する。 また、難治性癌の代表として膵臓癌への適用も考えている。膵臓癌治療薬候補として臨床試験が行われていたものの、有効性が確認できずドロップアウトした薬剤を用い、PPI阻害剤との共投与により感受性が増強するか検証する。この実験が良好な結果を示せば、一度はドロップアウトした膵癌治療薬候補物質の再評価が可能になると考える。 さらに、抗癌剤感受性増強効果の分子メカニズムにも着目する。これまでは、精製タンパク質を用いたPPI阻害活性試験により誘導体の効果を予測していたが、今回最適な化合物の選定を達成したことから、PPI阻害剤によるNrf2の核内以降の抑制などをウエスタンブロット法により評価する。分子メカニズムを明らかにすることにより、p62/Keap1/Nrf2に関連した抗癌効果のエビデンスが得られる。これによって、動物個体を用いた in vivo 抗癌効果試験のロードマップ策定が可能になると考える。
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