2019 Fiscal Year Research-status Report
Development of sunitinib-based molecular targeted drug conjugates
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19K16325
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
堂浦 智裕 名古屋大学, 工学研究科, 特任助教 (00745226)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 化学遺伝学 / ケミカルバイオロジー / Bump x Bump approach / ネガティブアロステリックモジュレーター / 代謝型グルタミン酸受容体 / Gタンパク質共役型受容体 |
Outline of Annual Research Achievements |
交付申請書に記載した研究の目的、研究実施計画では受容体型チロシンキナーゼ(RTK)阻害薬であるスニチニブをがん細胞への標的化分子として活用する予定であったが、スニチニブの受容体型チロシンキナーゼへの選択性は十分ではない。Kevan M. Shokatらは化学遺伝学的手法を用い、ある化合物と変異型RTKとの特異的なペアを作り出すことにより阻害薬の選択性を飛躍的に増大させている。そのため、本年度は化学遺伝学に着目し、野生型受容体の活性のみを阻害し、変異型受容体の活性は阻害しない阻害薬の開発に取り組んだ。 具体的には、代謝型グルタミン酸受容体1(mGlu1)とそのネガティブアロステリックモジュレーター(NAM)であるFITMとの複合体の結晶構造に着目し、FITMに近接している細胞外ループ2(ECL2)上のアミノ酸残基に変異を加えると共に、ECL2に近接するFITMのイソプロピル基を置換することにより誘導体化した。その結果、mGlu1のECL2上の748番目のスレオニン残基(T748)をトリプトファン残基に置換した変異型mGlu1 T748WはFITM誘導体の一つであるFITM 3-pentylによる活性阻害を受けないが、野生型mGlu1はFITM 3-pentylによる活性阻害を受けることが明らかになった。これは、変異型mGlu1 T748WとFITM 3-pentylを用いることによりmGlu1の活性制御が可能になったことを意味している。中枢神経系では運動学習に関与する小脳プルキンエ細胞にmGlu1が発現していることが知られており、小脳プルキンエ細胞のmGlu1の運動学習への関与についての詳細な解析が望まれている。上記の成果はその解析に応用できることが期待される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
化学遺伝学的アプローチによる受容体機能の制御においては、変異型受容体とそれに対応する人工リガンドの組み合わせを作り出すことが必須となる。2019年度はclass C GPCRの一つである代謝型グルタミン酸受容体サブタイプ1(mGlu1)に関する上記の組み合わせを創出した。以下に詳細を記述する。mGlu1とそのネガティブアロステリックモジュレーター(NAM)であるFITMの複合体の結晶構造から、複合体中のFITMはECL2の近傍に存在することが示されていた。この知見に基づき、mGlu1の細胞外ループ2(ECL2)と膜貫通領域3(TM3)との間のジスルフィド結合の形成に関与しているECL2上のC746の近傍のアミノ酸残基を種々のアミノ酸残基に置換した変異型mGlu1を作製した。また、複合体中でECL2に向き合っているFITMのイソプロピル基を種々の置換基に変えた誘導体を合成した。mGlu1はGq共役型のGPCRであるため、mGlu1が活性化するとGqタンパク質を介したシグナル伝達を通して細胞内カルシウムイオン(Ca2+)濃度が上昇する。この現象を利用したCa2+の蛍光イメージング実験から、これらの変異型mGlu1とFITM誘導体の組み合わせについてmGlu1の活性応答に基づいて評価した。その結果、ECL2上のT748をトリプトファン残基に置換した変異型mGlu1(mGlu1 T748W変異体)はFITMによって活性化が抑制されたが、FITMの誘導体であるFITM 3-pentylを加えた場合には活性を阻害されないことを見出した。このmGlu1 T748W変異体とFITM 3-pentylの組み合わせを利用することにより小脳プルキンエ細胞におけるmGlu1の運動学習への関係性を明らかにできると考えられる。以上より、2019年度の研究活動は概ね順調に推移したと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
現在、上述のmGlu1 T748W変異体とFITM 3-pentylの組み合わせをin vivoに適用し、小脳プルキンエ細胞におけるmGlu1の発達段階における運動学習への関係性を明らかにするための実験計画を作成している。初めに、プルキンエ細胞特異的なL7プロモーターの制御下でmGlu1 T748W変異体を発現するアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターを作製し、若い野生型マウスの小脳に注入することによってmGlu1 T748W変異体がプルキンエ細胞に過剰発現したマウスを作製する。このmGlu1 T748W変異体を持つモデルマウスにFITM 3-pentylを投与し、ローターロッド試験を実施する。FITM 3-pentylは野生型mGlu1の活性を阻害するが、mGlu1 T748W変異体の活性は阻害されない。そのため、FITM 3-pentylを投与されると小脳プルキンエ細胞に発現しているmGlu1 T748W変異体を除いた全てのmGlu1の活性が阻害される。一方、FITMを投与されると全てのmGlu1の活性が阻害される。この差を活用することにより、どの発達段階におけるmGlu1が運動学習に重要なのかを明らかにする予定である。 また、この化学遺伝学的アプローチ(細胞外ループエンジニアリング)の他のGPCRへの適用を検討している。mGlu1はclass C GPCRだが、GPCRの大部分はclass A GPCRに属している。そのため、生理機能や疾病との関連性が強いアデノシンA2A受容体やヒスタミンH1受容体への適用拡大を進めており、既に初期的な結果を得つつある。今後はさらに研究を進め、GPCR全般に広く活用できる化学遺伝学的アプローチとして細胞外ループエンジニアリングを磨き上げていく予定である。
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Research Products
(2 results)