2019 Fiscal Year Research-status Report
チェーンウオーキングの制御による不飽和脂肪酸の二重結合位置異性体の選択的合成法
Project/Area Number |
19K16331
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Research Institution | Research Foundation Itsuu Laboratory |
Principal Investigator |
白井 孝宏 公益財団法人乙卯研究所, その他部局等, 研究員(移行) (80828351)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 遷移金属触媒 / 脂肪酸合成 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究プロジェクトでは、二重結合の位置選択的な移動反応の開発が最終目標である。そこでプロジェクト初年度では、炭素鎖の短いカルボン酸誘導体をモデル基質として設定し、二重結合を末端位置から目的の位置まで移動させる反応系の開発を目指した。移動位置の位置選択性は、分子内配向基による位置選択的な金属種の補足によって達成されることを期待している。初期検討では分子内配向基としては遷移金属触媒で汎用される8-aminoquinolineを有するペンテン酸誘導体を選定した。本分子内配向基では5員環メタラサイクルの形成による位置選択的βヒドリド脱離による二重結合の位置選択的な形成を期待している。(本系で二重結合は、熱力学的に安定な共役構造を持つα,β位置ではなく、β,γ位に生成する。)検討の結果、ニッケル触媒を用いた系で目的化合物(β,γ-二重結合体)を主生成物、収率46%で獲得できることを見出した。続いて収率向上を目指し種々のニッケル触媒のスクリーニング、配位子の構造最適化などを行った。その結果、64%まで収率の向上を達成することが出来た。しかしながら、収率の向上に伴って予想外の副生成物、二重結合の還元体の生成量の向上が確認された。種々の検討の結果、副生成物の生成量をある程度抑えることが可能であったが、主たる反応の反応性(二重結合の移動反応)低下にも繋がってしまった。そこで還元体が生成しえない反応系探索を再度行った。その結果、還元体が全く生成しないルテニウム触媒系を新たに見出すことに成功した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究プロジェクト1年目は、短い炭素鎖を有するカルボン酸誘導体を用いた二重結合の移動反応に取り組んだ。その結果、分子内配向基を用いることで、二重結合の位置選択的な移動を達成した(末端位置からカルボニルβ,γ位までの二重結合の位置選択的な移動)。通常、二重結合の移動反応系では、α、β-不飽和ケトン体の生成が優先される。 よって本結果は、『配向基により二重結合の生成位置の制御』を目指す本研究課題にとって非常に重要な知見である。しかしながら初期検討で見出したニッケル触媒系では、二重結合の還元体の生成が問題となった。発生原因はメタルヒドリドの発生に必要なヒドロシランが考えられた。そこで還元体が生じえない触媒系の探索の結果、ルテニウム触媒系を見出した。ルテニウム触媒系では還元体は全く生成せず、二重結合の位置異性体のみが観測される。本触媒系を見出したことにより、真に位置選択的な二重結合の移動反応を達成した場合、超効率的な脂肪酸合成法の達成に近づくことが出来た。
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Strategy for Future Research Activity |
研究プロジェクト2年目にあたる本年度は、見出されたルテニウム触媒系を用いて分子内配向基の最適化を行い、収率80%以上を目指してゆく。同時に炭素鎖の長さを伸長してゆき、長いアルキル直鎖を有するカルボン酸誘導体への適用を目指す。次なるステップとして脂肪酸合成に対して実用的な方法を目指すべく、①取り外し容易な分子内配向基、②カルボキシル基と分子間相互作用が可能である金属配位子の設計を目指してゆく。
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Causes of Carryover |
倹約に大きく成功した背景には、試薬代の節約が挙げられる。プロジェクト1年目ではchain walkingを行う①遷移金属触媒の探索、及び②分子内配向基の探索を中心に行った。①の検討の中で、比較的早期にchain walkingに有効な遷移金属触媒を複数見出せたこと、そして初期検討で最良の結果を与えたニッケル触媒を用いる実験系に係る試薬(ヒドロシラン、塩基など)の多くが、所属組織の試薬倉庫に存在していたことが大きい。よって実質的な出費の大部分(実験消耗品)を占めたのは、②の分子内配向基の合成に必要なホスフィン配位子とカップリング剤となった。(1年目を持って乙卯研究所を退所し、広島大学に着任した。移動後の広島大学では、遷移金属触媒に係る実験機器、試薬が皆無なため、新たに実験機器、試薬類を購入する予定である。) プロジェクト2年目は、広島大学で新たなスタートとなる。既にモデル基質においてchain walkingの系に重要な遷移金属触媒、分子内配向基の特徴を見出している。そこで、これらの知見を統括し、反応条件の最適化を行う。続いて、炭素鎖の長さを伸長してゆき、長いアルキル直鎖を有するカルボン酸誘導体への適用を行い、論文化を行う。最終ステップとしては、(I)取り外し容易な分子内配向基、又は(II)カルボキシル基と分子間相互作用が可能である金属配位子を設計し、真に効率的な脂肪酸合成の確立を目指してゆく。
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Research Products
(2 results)