2019 Fiscal Year Research-status Report
発生過程における銅代謝機序の解明と銅栄養状態が脳組織に及ぼす後天的影響の評価
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19K16346
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Research Institution | Chiba University |
Principal Investigator |
田中 佑樹 千葉大学, 大学院薬学研究院, 助教 (50824041)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 銅代謝 / 新生児 / 化学形態別分析 / メタロチオネイン / 酸化ストレス |
Outline of Annual Research Achievements |
生体必須元素である銅は細胞内で欠乏にも、過剰にも陥らないよう、適切な濃度範囲に調節・維持されている。しかし、新生仔期の動物では、活性酸素による酸化ストレス障害のリスクが高まる程度の銅濃度の上昇が見られる。このような生理的に好ましくない状態が、生理的な要因で受動的に起きるのか、成長のための能動的な戦略なのかという背景は明らかになっていない。本研究では、従来の元素濃度に着目した手法に加え、化学形態、組織内分布、遺伝子発現量などのデータを総合的に取得、解析し、新生仔の銅代謝の変動機序を解明する。さらに、血液脳関門が未発達な新生仔は過剰な銅によって脳が敏感に影響を受けると予想される。そこで、新生仔の銅摂取量を変化させ、脳における銅の分布と酸化ストレスの影響を経時的に検証する。 初年度は、ラット新生仔から採取した肝臓、腎臓、血清中の銅濃度、銅化学形態、銅代謝関連遺伝子の発現量の測定、解析を実施した。その結果、生後間もない時期には肝臓内で銅が過剰に蓄積しており、成長と共に銅蓄積が解消することが明らかとなった。さらに、LC-ICP-MS(液体クロマトグラフィー誘導結合プラズマ質量分析計)を用いた化学形態別分析によって肝臓内の過剰な銅がメタロチオネインとして存在し、肝臓での銅蓄積の解消に伴って血清中のセルロプラスミン銅や腎臓の銅濃度が増加することが明らかになった。銅代謝関連遺伝子のうち、細胞内での銅輸送を担う銅シャペロンAtox1の発現量の変化が肝臓での銅蓄積解消、血中セルロプラスミン銅の増加と一致するタイミングで生じることが分かった。Atox1は抗酸化能を有するタンパク質であるため、新生仔の銅代謝を変動させる要因として酸化ストレスが関与する可能性が示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
新生仔に見られる肝臓中での銅の蓄積をICP質量分析計を用いた元素分析を基盤とした分析技術により明らかにした。これまでに報告されていた肝臓での銅蓄積に加え、成長に伴う血清中でのセルロプラスミン銅の増加、肝臓における銅代謝関連遺伝子の発現変動を評価した。一連の研究成果は国内学会、国際学会での発表、国際学術誌Metallomics(Royal Society of Chemistry)での掲載に至った。
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Strategy for Future Research Activity |
新生仔期の銅の栄養状態が脳組織へ及ぼす影響を評価する計画であったが、これまでの結果から新生仔の肝臓での銅蓄積に酸化ストレスの変化が寄与している可能性が示唆された。そこで、次年度は栄養状態ではなく、酸化ストレスが細胞内の銅代謝にどのような影響を及ぼすかという点に着目し、主に培養細胞を用いた銅代謝評価を実施する。培養細胞を用いた試験は研究代表者の所属機関において設備、ノウハウが充実しており、問題なく進捗することが期待される。
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