2020 Fiscal Year Research-status Report
セレン結合性タンパク質が関与する心臓のセレン代謝経路の解明
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19K16351
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Research Institution | Nagasaki University |
Principal Investigator |
吉田 さくら 長崎大学, 医歯薬学総合研究科(薬学系), 助教 (40736419)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | セレン / 心臓 |
Outline of Annual Research Achievements |
必須微量元素セレンの欠乏は心筋障害を起こすことが知られており,心臓におけるセレンの機能は重要であると考えられる。しかし,セレン欠乏が心筋障害を引き起こす機構や,心臓におけるセレン代謝過程については不明な点が多く残されている。そこで本研究は,心臓におけるセレン代謝過程,特に心筋細胞へのセレン取り込み機構を明らかにするため,下記の事項を検討した。 ・心筋細胞の培養およびセレン代謝の検討:心筋細胞の培養において,ミオグロビンの検出を含め,心臓に特徴的なタンパク質の検出を試みた。心筋細胞を含む種々の細胞へセレン化合物を添加し,細胞内セレン濃度およびセレン含有タンパク質であるグルタチオンペルオキシダーゼ活性の上昇に与える影響を検討した結果,培地中セレンが取り込まれ,セレン含有タンパク質活性上昇に寄与することがわかった。 ・ミオグロビンのセレン代謝との関連性の検討:ラットの心臓から,限外ろ過により精製したミオグロビンを還元した後,低分子セレノトリスルフィド化合物とのチオール交換反応により,セレノトリスルフィド結合ミオグロビンを調製した。ミオグロビンに結合したセレンがどのように代謝されるかを調べるため,ミオグロビンに結合したセレンが,他のチオールタンパク質へ移行するか検討した。初めにモデルタンパク質として,ヒト血清アルブミンと反応させた結果,アルブミンにセレンが移行することがわかった。このことから,ミオグロビンに結合したセレンは他のチオールタンパク質へ移動できることが示された。さらに,限外ろ過によりミオグロビンを除いた後の心臓細胞質溶液と,セレノトリスルフィド結合ミオグロビンを反応させた結果,ミオグロビンに結合したセレンが,他の心臓細胞質溶液中タンパク質へ移行することが示された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
・生体内のセレンの化学形については未だ明らかにされていない点が多く,グルタチオンセレノトリスルフィド(GSSeSG)は,生体に存在することが報告されている数少ないセレン化合物である。臨床でセレン欠乏症治療などに用いられる亜セレン酸は,グルタチオンにより還元され,GSSeSGを生成するが,GSSeSGは反応性が高く生体内で安定して存在することは難しいと考えられる。一方,著者らのこれまでの研究により,セレノトリスルフィド結合を介してタンパク質チオールに結合したセレンは,生理的条件下でも比較的安定して存在することがわかっている。従って,セレンを結合したチオールタンパク質が生体内のセレンの輸送や保持に関与するのではないかと考えられた。実際に本研究において,ラットのミオグロビンを含む種々のチオールタンパク質とセレノトリスルフィド化合物とのチオール交換反応によりセレノトリスルフィド結合タンパク質を調製し,心筋細胞を含む種々の細胞へ添加したところ,セレンの細胞への取り込み,およびセレンタンパク質生合成への利用を確認することができた。 ・モデル実験として,調製したセレノトリスルフィド結合ミオグロビンを,代表的なチオールタンパク質であるヒト血清アルブミンと反応させ,ミオグロビンのセレンがアルブミンに移行するかを検討した。セレノトリスルフィド結合ミオグロビンとヒト血清アルブミンを混合して一定時間反応させた後,限外ろ過によりミオグロビンとヒト血清アルブミンを分離し,それぞれの画分のチオール量およびセレン量を定量した結果,ミオグロビンに結合したセレン量が減少したのに対応して,ヒト血清アルブミンのチオール量が減少し,セレン量は増大した。また,この反応はチオール基の濃度依存的に進行することが確認された。
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Strategy for Future Research Activity |
・これまでに由来組織の異なる複数の細胞を培養し,セレンの取り込み挙動を比較検討した。分化前後の心筋細胞を用いてセレン化合物の利用能の検討を行った結果,著者らの以前の研究に用いた細胞同様に,セレンの取り込みおよびGPx生合成への利用が確認された。しかし,用いた細胞において心筋細胞の特徴が十分に確認されなかったことや,分化後の細胞からの細胞質溶解液の調製をより効率的に行う必要性があることから,さらに分化培養条件を検討するとともに,骨格筋細胞などを用いた比較検討を行う。また,ミオグロビンやヒト血清アルブミンなどのチオールタンパク質に結合したセレンがどのようにして細胞に取り込まれるかについて,膜タンパク質のチオール基の分析や,細胞のエンドサイトーシス阻害剤などを用いた検討により,今後さらに詳細調べる予定である。 ・ミオグロビンに結合したセレンが他のチオールタンパク質や,心臓由来成分に移行することが示唆されたことから,そのタンパク質や成分の同定を行う。心臓由来成分を分子量やイオン性などにより細かく分画した後,セレノトリスルフィド結合ミオグロビンと反応させ,セレンが移行した成分を質量分析法や電気泳動により検出し,同定を試みる。 ・これまでの検討はラットの心臓を用いて行なってきたが,この現象が他の生物種とも共通しているかどうか検討する。マウスおよびヒトのミオグロビンには遊離チオール基が存在することから,マウスからラットと同様にミオグロビンを分離精製し,セレンの結合性や,結合したセレンの移行性など,ラットの場合と同様の検討を行う。さらに,リコンビナントヒトミオグロビンを用いた実験についても検討する。
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Causes of Carryover |
(理由) 消耗品や試薬の価格変動や実験研究の進行状況により,残高が発生した。また,参加予定国際学会の延期,国内学会のオンライン化により旅費支出がなくなったため。 (使用計画) 次年度の消耗品や試薬の購入に使用を予定している。
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Research Products
(3 results)