2019 Fiscal Year Research-status Report
エキソソーム脂質に着目した薬剤性肝障害に対する新規バイオマーカーの網羅的探索研究
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19K16365
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Research Institution | National Institute of Health Sciences |
Principal Investigator |
孫 雨晨 国立医薬品食品衛生研究所, 医薬安全科学部, 研究員 (60818904)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 薬物性肝障害 / エキソソーム / リピドミクス / バイオマーカー |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、医薬品の重篤な副作用の一つである薬剤性肝障害(DILI)の発生を予測し、本副作用の早期検出を可能とする新規エキソソーム脂質バイオマーカー分子の同定・検証を目的とした。 令和元年度は、ヒト血漿・血清試料中のエキソソーム脂質分子をLC/MS測定により網羅的解析するためのリピドミクス手法を構築し、論文化を行った。さらに、肝障害動物モデル由来血漿を用いたDILIバイオマーカー候補エキソソーム脂質分子の探索を実施した。四塩化炭素(0, 30, 300 mg/kg)を反復投与(day3, 28)したラットの血漿中エキソソームを市販の抽出試薬を用いて精製し、抽出試料の粒子サイズをナノ粒子トラッキング法、エキソソームマーカー発現をウェスタンブロッティング法により評価した。その結果、既報の血中エキソソームと類似したサイズ及びマーカー発現が確認できた。次に、これら血中エキソソーム中に含まれるリン脂質分子を固相カラムにより抽出し、リピドミクス解析により肝障害が生じたラットで特徴的な変化を示すエキソソーム脂質分子の探索を行った。28日間四塩化炭素を反復投与したラットとコントロールラットにおけるエキソソーム脂質分子量を比較したところ、59種の脂質分子が肝障害を発症したラット血漿エキソソーム中においてその含有量の有意な低下を示した。このうち、16種の脂質分子の含有量変化は、代表的な肝障害マーカーであるALTより早期に生じることが認められた。さらに、これら16種の脂質分子はALTと比べ、著しく高い診断能を示した。 以上、当該年度の研究により、DILIの早期診断を可能とするバイオマーカー候補エキソソーム脂質分子を複数種見出した。次年度以降に、肝細胞やヒト由来試料を用いてこれら分子の発現変動について検証する予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
まず初めに、当該年度の検討により、DILIに対する新規血中バイオマーカー分子の探索のために必要な、血液試料中のエキソソーム脂質に対する新規リピドミクス手法を構築でき、その論文化を達成した。さらに、本年度は四塩化炭素を用いた肝障害モデルラットの血漿試料を用い、本研究の成果として期待されるDILIの早期診断に資するバイオマーカーとなりうるエキソソーム脂質分子を複数種同定できた。以上の研究成果より、本研究は(2)おおむね順調に進展していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
令和元年度のスクリーニング試験では、四塩化炭素による肝障害モデルのみを利用したため、同定されたDILIバイオマーカー候補エキソソーム脂質分子の肝障害における含有量変化の再現性について追加の検証を行う必要があると考える。そこで、令和二年度は(1)in vitro肝細胞モデル(Huh-7, HepG2, HepaRG等)及び(2)in vivo検体を用いて上記脂質分子のDILI診断における再現性や有用性について追加検証を進める予定である。具体的に、(1)では複数種のDILI誘発性薬剤(アセトアミノフェンやアミオダロン等)、DILI非誘発性薬剤(アスピリン, イブプロフェン等)を暴露した肝細胞の培養液中に含まれるエキソソームを回収し、初年度で同定されたDILIバイオマーカー候補エキソソーム脂質分子の含有量を解析する。(2)では、前向きアセトアミノフェン投与試験で得られたヒト血液検体(ALT上昇群とALT非上昇群)を用いて、対象エキソソーム脂質分子群の含有量測定を実施し、DILIの発症予測におけるそれら分子の診断能をROC曲線により評価する予定である。さらに、これらの検証試験で再現性が確認できたエキソソーム脂質分子に関して、肝毒性を生じた肝細胞エキソソーム中における生理的機能の解明に向けた分子生物学的検討を開始する。具体的には、当該分子の含有量を変化させた肝細胞由来エキソソームを各種肝臓構成細胞に暴露した際に、それら細胞に特徴的な機能への影響の解析を実施する予定である。
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Causes of Carryover |
令和元年の薬物性肝障害の新規バイオマーカースクリーニング試験では、過去に実施したプロジェクトにおいて作製した四塩化炭素誘発性肝障害モデルラットから採取した試料を再利用し、リピドミクス解析を実施したため、一連の動物試験の費用、並びにそれに伴う消耗品類の支出を大きく削減することができた。一方で、令和2年度は、同定されたエキソソーム脂質の検証試験をin vitro肝細胞やヒト由来血液検体等を用いた評価を行うため、培養関連物品やエキソソーム回収用試薬等について従来計上していた予算より多くの出費が予想されるため、繰り越した助成金をこれらの物品費に使用する予定である。加えて、検証試験において、再現性が確認できたエキソソーム脂質分子について、その含有量変動のメカニズム解明を目指し、令和元年の検討で使用した肝障害ラットの肝臓における脂質代謝酵素の網羅的mRNA発現量解析を実施する予定であり、そのための外注費用に助成金を充てる予定である。さらに、令和2年度は肝毒性発生時の肝臓構成細胞間のコミュニケーションシにおけるエキソソーム脂質の役割の解明を目指し、様々なin vitro肝臓構成細胞を用いた機能解析(増殖能、遊走能、炎症性サイトカイン産生能等)を実施する予定である。
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