2020 Fiscal Year Research-status Report
エキソソーム脂質に着目した薬剤性肝障害に対する新規バイオマーカーの網羅的探索研究
Project/Area Number |
19K16365
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Research Institution | National Institute of Health Sciences |
Principal Investigator |
孫 雨晨 国立医薬品食品衛生研究所, 医薬安全科学部, 研究員 (60818904)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 薬物性肝障害 / エキソソーム / リピドミクス / バイオマーカー |
Outline of Annual Research Achievements |
令和2年度は、薬物性肝障害(DILI)に対する新規エキソソーム脂質バイオマーカーのスクリーニングに用いた肝障害モデルラットの肝臓における病理組織学的評価を行い、肝病変とエキソソーム脂質マーカー分子の変動の関連解析を実施した。まず、四塩化炭素(0, 30[低濃度], 300[高濃度] mg/kg、各郡n=5)を反復投与(day3, 28)したラットの肝臓における線維化の評価を行ったところ、肝線維化はday3の全個体で認められず、day28の肝臓では低濃度投与群で3個体、高濃度投与群で5個体極軽度の線維化が認められた。次に、小葉中心性の水腫変性について解析した結果、day3のラット肝臓における小葉中心性水腫変性は高濃度投与群にのみ認められ、day29のラット肝臓では高濃度投与群のすべての個体と低濃度投与群の2個体において軽度及び極軽度の水腫変性が認められた。一方で、day29の試料では高濃度及び低濃度投与群の全個体において、軽度から重度の小葉中心性脂肪変性が確認された。さらに、同様の脂肪変性の発生がday3の低濃度投与群の全個体で観察された。これまでの検討で、四塩化炭素を投与したラット血漿エキソソームにおいてリゾホスファチジルコリン(LPC)分子群の含有量が低下することを見出している。そのため、血漿エキソソームのリン脂質組成に関する解析を実施したところ、day29のみでなくALTが上昇しない軽度な肝障害のみが認められているday3の低濃度投与群においても、エキソソームリン脂質におけるLPCの占有率の顕著な低下が確認できた。以上の結果から、リン脂質組成変化に伴うLPC量の減少は、早期の肝障害ステージにおいても生じることが示され、LPCの量的変化が有望なDILIの早期診断バイオマーカーになりうると考えられた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
今年度は肝障害モデルラット由来肝組織の病理組織学的評価や同定されたエキソソームリン脂質分子の組成解析を中心に研究を実施し、昨年度得られた結論をサポートするためのデータを取得することができた。しかし一方で、エキソソーム精製のための装置の故障やコロナウイルスの感染拡大に伴う研究活動の制限により、当初予定していたin vitro肝細胞系をやヒト試料由来エキソソームを用いた検証実験を令和3年度に延期せざるを得なかった。以上の状況をふまえ、従来の計画より進捗状況がやや遅れていると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
当初の計画で実施予定であった、肝細胞毒性を誘発したin vitro肝細胞モデルを用いた、これまでに同定されたDILIバイオマーカー候補エキソソーム中LPC分子群の量的変化ついて追加検証を進める予定である。また、その変動メカニズムを解明するために、網羅的遺伝子発現解析を用いてLPC分子群の産生や分解に関与する遺伝子の変動を解析する。さらに、動物モデルで同定されたDILIバイオマーカー候補エキソソーム脂質分子のヒトにおける有用性を明らかとするために、DILIを発症した患者由来血液検体からエキソソームを精製し、それら小胞中のLPC分子群の量的変化によるDILIの診断能についてROC曲線解析等を用いて評価を行う予定である。
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Causes of Carryover |
令和2年度の研究では、病理組織学的評価とデータ解析を中心に研究を行っており、当初予定していたin vitroやin vivo試験の実施を令和3年度に延期したため、これら試験の実施のための繰越金が発生した。 令和3年度は、DILIバイオマーカー候補エキソソーム脂質分子の検証実験に必要な細胞培養関連の消耗品(フラスコ、培地、血清等)に加え、エキソソーム精製キットに繰越金を用いる予定である。また、エキソソーム脂質の変動メカニズムを明らかとするために、それら脂質分子の産生や分解に関わる脂質代謝酵素の網羅的発現解析にも繰越金を充てる予定である。
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