2020 Fiscal Year Research-status Report
マイコプラズマのメタボローム解析を通じた生理活性分子探索と微生物迅速法の開発
Project/Area Number |
19K16366
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Research Institution | National Institute of Health Sciences |
Principal Investigator |
林 克彦 国立医薬品食品衛生研究所, 衛生微生物部, 研究員 (60804739)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | マイコプラズマ / メタボローム解析 / リビドミクス解析 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、メタボローム解析を通じて、培養細胞のマイコプラズマ汚染の検出またはマイコプラズマ汚染に関わる機構の解明を目指す。具体的には、細胞培養の培地成分または培地上方気相成分(臭気成分)を、LC-MSまたはGC-MSで解析することで、マイコプラズマ感染に特徴的な代謝産物を特定し、関連する酵素または遺伝子の解析を行うことで、マイコプラズマに汚染されることによる細胞の状態変化を解明する。この状態変化を捉えることで、マイコプラズマ汚染の検出に利用する。 研究1年目には、抗体産生に利用されるCHO DG44細胞にMycoplasma hyorhinisを接種したマイコプラズマ感染細胞を確立し、生存率及び細胞増殖性に影響がないものの、マイコプラズマが増殖することを確認した。 研究2年目には、代謝産物を脂質に限定し、抽出及び濃縮した脂質に対するメタボローム解析(リピドミクス解析)を実施した。マイコプラズマ感染細胞、または、陰性対照としてCHO DG44細胞を培養し、細胞または培地上清から総脂質を抽出し、逆相カラム及び疎水性溶媒を用いたLC-MS/MS解析によって、マススペクトルデータを取得した。マススペクトルデータから、脂質成分を特定または推定し、陰性対照とマイコプラズマ感染細胞の間で、多変量線形回帰分析を行うと、脂質成分の差異が示唆された。特に差異に寄与する脂質分子として、マイコプラズマ感染に関連するリゾ脂質が推定された。以上から、特徴的な脂質分子の検出によって、CHO DG44細胞のマイコプラズマ感染状態が判別されることが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では、3年間を予定し、1年目及び2年目には、マイコプラズマ感染細胞を確立し、メタボローム解析によって、マイコプラズマ感染状態に特徴的な代謝産物の検出することを計画した。1年目までに、マイコプラズマMycoplasma hyorhinis及び抗体産生に利用されるCHO DG44細胞を用いた、マイコプラズマ感染細胞の調製法を確立した。 研究2年目には、代謝産物を脂質に限定し、Folch変法によって総脂質を抽出及び濃縮して、メタボローム解析の1種であるリピドミクス解析を実施した。マイコプラズマ感染細胞または陰性対照のCHO DG44細胞を培養し、細胞または培地上清から抽出した総脂質を、LC-MS解析した。得られたマススペクトルデータを解析ソフトウェアMS-DIALによって解析し、脂質分子を特定または推定した。マイコプラズマ感染細胞及び陰性対照の結果間で、部分最小二乗法回帰(PLS回帰)による多変量線形回帰分析を行うと、回帰分析における寄与度の大きな要素として、リゾ脂質、スフィンゴ脂質、セラミド及びカルジオリピンに関連する脂質分子が選出された。これらの脂質分子は、細胞及び培地上清の両方で差異が見られた。マイコプラズマは、特有のリパーゼによって、宿主の脂質をリゾ脂質に変換することが、報告されている。PLS回帰で、リゾ脂質が候補に上がったことから、マイコプラズマ感染状態が、メタボローム解析の結果に反映されることが示唆された。また、これらの結果から、メタボローム解析による特徴的な脂質分子の検出が、CHO DG44細胞のマイコプラズマ感染状態の判別法として応用される可能性が示唆された。
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Strategy for Future Research Activity |
1年目及び2年目の研究によって、マイコプラズマ感染細胞の脂質分子に対するメタボローム解析(リピドミクス解析)を通じて、培養細胞のマイコプラズマ汚染を判別可能なことが示唆された。メタボローム解析の対象となる代謝産物には、これまでに解析した脂質の他に、揮発成分(臭気成分)、アミノ酸及び糖質が挙げられる。 3年目の研究では、揮発成分、アミノ酸及び糖質を、GC-MSでメタボローム解析して得られたマススペクトルデータをもとに、マイコプラズマ感染に関連する分子種の特定を試みる。代謝産物のうち、アミノ酸及び糖質では、固相カラムによる精製及びトリメチルシリル誘導体化を行うことで、また、臭気成分では、臭気成分吸着剤を少量の溶媒に浸漬することで、抽出及び濃縮して解析に用いる。マススペクトルデータの解析手法としては、リピドミクス解析で使用した多変量線形回帰分析を応用する。 また、マイコプラズマ感染細胞に用いるマイコプラズマとして、1年目に確立したその他5菌種を用いて、メタボローム解析を行い、共通する代謝産物の存在を確認する。これらのメタボローム解析を通じて特定された、マイコプラズマ感染に関連する代謝産物の産生酵素または関連する酵素に対する阻害剤を、マイコプラズマ感染細胞に添加することで、マイコプラズマ感染に対する効果を確認し、代謝産物の感染への関連性を実験で検証する。これらの結果を、学会報告または論文報告する準備を行う。
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