2020 Fiscal Year Research-status Report
血液脳関門の薬物透過性を予測する血液マーカーに関する検討
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19K16406
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Research Institution | Chiba University |
Principal Investigator |
石川 雅之 千葉大学, 大学院薬学研究院, 助教 (40824561)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 血液脳関門 / 髄液 / バンコマイシン / 蛋白結合率 |
Outline of Annual Research Achievements |
昨年度に引き続き対象患者の血清および髄液中薬物濃度の測定、GFAPおよびUCHL1血中濃度の測定を行った。 申請者らの以前の検討により、バンコマイシン (VCM)の髄液移行率は髄液蛋白/血清アルブミン比と正の相関を示すことが明らかとなっている。髄液蛋白/血清アルブミン比は血液脳関門 (BBB)の透過性を反映するものと考えられており、BBBの透過性が亢進していない時にはVCMはほとんど髄液に移行しない一方で、亢進時にはその髄液移行率が高い傾向がある。今年度、髄液蛋白/血清アルブミン比が0.044と比較的高値で髄液中VCM濃度が5.8 μg/mLであった症例において、VCMの血清および髄液中の蛋白結合率の測定を行った。その結果、血清蛋白結合率が17.4%であったのに対し髄液中の蛋白結合率は1.7%であり、髄液中でVCMはほとんど遊離型として存在することが示された。遊離型の薬物が薬効発現に関与することから、BBB透過性亢進時にVCMの中枢作用が増強する可能性を示しており、髄液蛋白/血清アルブミン/起因菌の最小発育阻止濃度が細菌性髄膜炎に対するVCMの細菌学的有効性と関連する可能性を示す昨年度の結果を裏付けるデータの一つであると考えられた。 さらに、VCM以外の複数薬物の髄液移行率について検討を行った結果、髄液蛋白/血清アルブミン比が高い症例においても髄液移行率がほとんど変化しない薬物が存在することが示された。原因については現在のところ不明であるが、今回の結果よりBBB透過性亢進時に髄液移行率が向上する薬物とあまり変化しない薬物が存在することが明らかとなった。この点に関しては今後さらなる検討が必要と考えられた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
対象症例数が当初の想定より少なかったこと、得られる検体量が不足していた症例や薬物濃度が想定より低く定量できない症例が複数存在したことなどにより、結果が得られた症例数は当初の想定より少ない。 しかし、今回得られたバンコマイシンの髄液中における蛋白結合率に関する知見は、BBB透過性亢進時にバンコマイシンの中枢作用が増強する可能性を示す貴重なデータである。また今回の結果により、BBB透過性亢進時に髄液移行率が向上する薬物とあまり変化しない薬物が存在することが明らかとなり、病態時における中枢移行性の変動を考慮した適切な薬物療法の実践という本研究の大きな目的を達成するための非常に重要な知見を得ることができたと考えている。今後、対象薬物を増やすことを検討しており、最終年度には解析に必要な症例数の確保が可能となる見込みである。
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Strategy for Future Research Activity |
対象患者の血清および髄液中薬物濃度の測定、GFAPおよびUCHL1血中濃度の測定を引き続き行い、解析を進める方針である。今年度の検討によりBBB透過性亢進時に髄液移行率が向上する薬物とあまり変化しない薬物が存在することが明らかとなった。どの様な薬物においてBBB透過性亢進時に髄液移行率が亢進しやすいかについて明らかにすることは、病態時における中枢移行性の変動を考慮した適切な薬物療法の実践のために重要であり、医薬品開発においても中枢神経系副作用の潜在リスクを評価するために重要な情報になり得る。そこで今後は測定対象薬物を増やし、物性やトランスポーターの基質であるかなどの点で多様な薬物の髄液移行率の測定を行うことを検討している。定量系を確立していない薬物に関しては新たに定量系を確立する、あるいは外注により定量を行うことを検討している。
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Causes of Carryover |
対象症例数が当初の想定より少なかったことが理由の一つである。 本年度の検討の結果から今後は対象薬物を増やす必要性が生じたことから、新たな定量系の確立、あるいは外注による薬物血中および髄液中濃度測定に繰越分の費用を用いることを計画している。
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