2020 Fiscal Year Research-status Report
FabエンジニアリングによるADAs産生抑制に関する研究基盤の確立
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19K16434
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Research Institution | Sojo University |
Principal Investigator |
中村 仁美 崇城大学, 薬学部, 助教 (60510691)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | ADAs / 抗体医薬品 / Fab / 安定化 |
Outline of Annual Research Achievements |
抗体医薬品は標的となる分子にピンポイントで結合する特徴があるため、少ない副作用で高い治療効果を発揮することができる。しかし、ヒト抗体医薬品であっても患者体内で異物と認識されて抗薬物抗体(anti-drug antibodies: ADAs)が産生される問題があり、これを解決するための方策が求められている。ADAs産生は、抗体のFab領域にある抗原結合部位(CDR)が引き起こす可能性が高いが、CDRへの変異導入は標的分子との結合に影響を及ぼすため、望ましくない。一方、我々は安定性が高い蛋白質抗原ほど、それに対する抗体産生が抑制されることを報告しており、このことは、Fab領域の安定性を高めることで、CDRを改変せずにADAs産生が抑えられる可能性を示唆している。本研究課題は、新たなADAs産生抑制法開発のための基盤づくりとして、Fab領域の安定性と抗体産生の相関性について明らかにすることを目的としている。 前年度にFabの定常部をターゲットとした変異体デザインを行っており、今年度も引き続き、酵母Pichia pastorisを用いてデザイン済みの変異体の調製を行った。今年度は6変異体を調製したが、安定性の指標となる変性中点温度(Tm)が野生型よりも上昇したものはなかった。前年度分とあわせて計14変異体を調製したが、期待したほどの安定化がみられなかったため、今年度は変異導入部位の探索範囲を可変部の中でも抗原結合に直接関与しないフレームワーク領域(FR)まで拡大し、H鎖FRにおいて2ヶ所の変異部位を見出した。他のFabのH鎖FRでは、この2ヶ所はロイシンである場合が多いが、本研究課題のFabではイソロイシンやトレオニンとなっていた。そこで、この2ヶ所をともにロイシンに置換した変異体を作製したところ、5℃程度のTm値の上昇がみられ、疎水相互作用の増強による安定化ではないかと考えている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
変異体を調製する過程で、本研究課題で用いているFabのL鎖が、非常に二量体を形成しやすいことが判明し、Fabを確実に回収するための工夫として、H鎖にヒスチジンタグを付加することとした。これに伴い、Fab精製法の見直しも行った。一方、当研究室において、FabにN型糖鎖を付加すると抗原性が低下することを見出した。本研究課題で用いているFabのH鎖にはもともとN型糖鎖付加配列があるため、今後の免疫実験のことを考慮して、安定化変異に加えてN型糖鎖付加配列をなくすための変異を追加導入することとした。以上のように、当初想定していなかった改変を加えて精製条件の再検討も行ったためFab安定化体の調製に遅れが生じたが、H鎖にヒスチジンタグを導入したことで、Fab発現酵母株のスクリーニングやFab精製の効率を改善することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
H鎖FRで新たに見出した2ヶ所の変異部位について、今年度は2ヶ所ともにロイシンに置換したことで安定化に成功した。ロイシン以外にメチオニンも置換候補に挙がっているため、今後はこれらを組み合わせた変異体の作製と安定性の評価(Tm測定、プロテアーゼ消化実験)を行い、野生型と最も安定化している変異体を用いて免疫実験を行い、Fabの安定性と抗体産生量の相関性について考察する。
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Causes of Carryover |
今年度は新型コロナウイルスの影響で実験を中断した時期があったため、補助事業期間の延長申請を行った。これに伴い、次年度使用額が生じた。次年度も引き続き、物品費(各種試薬、プラスチック消耗品、免疫実験関連の消耗品等の購入)として使用予定である。
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