2020 Fiscal Year Research-status Report
侵害受容C線維の刺激特異性を決める遺伝子の探索とlabeled line説の検証
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19K16480
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Research Institution | Nara Medical University |
Principal Investigator |
石西 綾美 奈良県立医科大学, 医学部, 研究員 (10836018)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 疼痛 / labeled line |
Outline of Annual Research Achievements |
痛みは様々な疾病においてQOLを著しく低下させる因子でもある。疼痛の発生メカニズム及び神経系における伝達機構は多様でありその全貌は明らかではない。我々は、別の研究テーマで使用しているBACトランスジェニックマウス(以下、TGマウス)が、痛み刺激に対する反応が著しく低下していることを偶然に発見した。興味深い点は、機械刺激および化学刺激に対する反応は著しく低下しているものの、熱刺激に対する反応は正常であることである。疼痛刺激はAδ線維(有髄線維)とC線維(無髄線維)によって伝えられる。C線維は熱・機械・化学刺激の多様(ポリモーダル)な刺激に反応するとされているが、我々が見出した表現型は、多様な刺激に反応すると考えられていたC線維は、実は行動を伴った明確なグループに区別できることを示唆する。これまでにも、異なる痛み刺激は異なる末梢神経を活性化させる可能性も考えられてきたが(labeled line説)、その証明には至っていない。本研究は、極端な疼痛鈍麻マウスの順遺伝学的解析で疼痛原因遺伝子の同定とそれに基づくlabeled line説の検証を行うことを目的とした。TGマウスはBACトランスジーンの挿入によって、その領域の内在性の遺伝子の発現を阻害または変動させ、その結果生じる遺伝子の機能異常により、疼痛刺激に対する行動変化が起きたと仮説を立てた。次世代シークエンスを用いた順遺伝学的なスクリーニングにより、トランスジーン挿入部位近傍の3つ遺伝子制御が完全に破綻していること、さらに同定された候補因子の中で細胞膜の動態や細胞内トラフィッキングに関与する因子Sorting nexin (Snx)を ノックアウト(KO)したマウスではTGマウス同様に痛み行動の減弱が認められることを見出した。これらのことから、Snxが疼痛惹起に重要な因子であることが明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
WTおよびSnx KOマウスからDRGニューロンを調整し、Ca imagingを行なった結果、Snx KOマウス由来のDRGニューロンでは発痛物質に対する反応が有意に減弱していることを見出した。さらに、疼痛発生時に機能が亢進する疼痛関連因子(TRPV1, Nav1.7, P2X3, Trk等)の発現を調べた結果、Snx KOマウスではDRGにおけるこれらの発現が著しく低下していることを見出した。Snx KOマウスも TGマウスと同様に機械刺激および化学刺激に対する反応は著しく低下した。興味深いことにSnx KOマウスは2ヶ月齢では熱刺激に対する痛み行動は野生型マウスと全く変わらないが、8カ月齢では熱刺激に対する痛み行動が減弱することが明らかになった。機械刺激、化学刺激、熱刺激に対する疼痛発生機序にも時期特異的な違いがあるかもしれず、その制御因子としてSnxが重要な役割を担うことも考えられる。また、疼痛惹起におけるSnxのより詳細な機序を解析するため、DRG特異的(Advillin-Creマウス)にSnxをKOしたconditional KOマウス(タモキシフェン誘導型)を作製したが、予想に反してDRG特異的conditional KOマウスでは痛覚鈍麻を示さなかった。TGマウスおよびSnx KOマウスでは末梢の免疫系細胞に異常が認められることも見出しているため、マクロファージ特異的(Lysozyme M-Cre, Cx3cr1-CreERT2) conditional KOマウスを作製し疼痛行動評価を行なった結果、これらconditional KOマウスで痛覚鈍麻を示すことが明らかになった。
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Strategy for Future Research Activity |
これまで用いているTGマウス、Snx KOマウスと新たに作製したマクロファージconditional KOマウスを用いて、同定遺伝子の欠損がなぜ機械刺激と化学刺激誘発性疼痛行動を抑えるのかについて解析する。Snx KO、conditional KOマウスでは皮膚における神経支配が変化していることも考えられるため、感覚神経の支配領域を免疫組織学的に検証する。また、神経支配に差が認められる場合、時期特異性があることも想定されるため2カ月齢、8カ月齢の皮膚でも比較する。 マクロファージ特異的conditional KOで疼痛行動が減弱したが、マクロファージのSnxがどのような機序で末梢神経神経の疼痛関連因子の発現に影響を及ぼすのかを明らかにする。Snxは細胞内においてエンドゾームに局在し、膜局在する物質の輸送に関わる因子である。Snxのカーゴ(積み荷)は何かを明確にするため、これまで候補に挙がっている数種類のカーゴ因子について293T細胞を用いて免疫沈降法で明らかにする。
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