2019 Fiscal Year Research-status Report
エクソソーム制御による慢性肝疾患関連サルコペニアに対する新規治療法の開発
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19K16532
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Research Institution | Chiba University |
Principal Investigator |
中村 昌人 千葉大学, 医学部附属病院, 特任助教 (10756703)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | サルコペニア / 慢性肝疾患 / エクソソーム |
Outline of Annual Research Achievements |
慢性肝疾患・肝硬変は、肝不全や肝癌などの肝関連合併症以外にも、糖尿病や腎不全、動脈硬化などの多彩な他臓器合併症を引き起こす全身疾患であり、臓器間相互作用異常の端的な例である。近年、「高齢期にみられる骨格筋量の減少による身体機能の低下」であるサルコペニア(Sarco:筋肉、Penia:喪失)が、慢性肝疾患患者の予後に影響する他臓器合併症の一つとして注目されている。本研究では、新規マウスモデルを創出し、慢性肝疾患関連サルコペニア研究の基盤を形成するとともに、臓器間相互作用を担う物質であるエクソソームに着目し、肝臓-筋肉間相互作用の重要性と治療標的としての可能性を明らかにすることを目的とした。 マウスモデルの候補として、肝硬変モデルとして広く用いられている四塩化炭素投与モデルを検討した。四塩化炭素投与により肝硬変を発症したものの、コントロールと比較して握力および筋重量の有意な低下は認められなかった。サルコペニアの発症には加齢も重要な要素であることから、老齢マウスを用いて同様の検討を行ったが、やはり握力および筋重量の有意な低下は確認できなかった。肥満や糖尿病もサルコペニアの誘因となるため、肥満および糖尿病に伴う慢性肝疾患である非アルコール性脂肪性肝疾患モデルマウスを新規に作成し、サルコペニアを発症し得るか検討中である。 また、エクソソーム解析を平行して行った。超遠心法、ポリマー沈殿法のいずれでもマウス血清からのエクソソーム単離は可能であり、エクソソーム単離法の確立に成功した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当初の計画では、本年度に慢性肝疾患関連サルコペニアモデルを確立することを目指していたが、四塩化炭素投与モデルではサルコペニアの発症は確認できなかった。慢性肝疾患単独ではサルコペニアを惹起できないと考え、加齢マウスを使用したが同様であった。現時点で、慢性肝疾患関連サルコペニアモデルの確立には至っていないため、マウスモデルの作成という点では本研究の進捗は予定より遅れていると考えている。 一方で、マウス血清を用いたエクソソーム単離には成功しており、エクソソーム研究を遂行する上での基礎は確立できたと考える。 さらには、来年度に行う予定としていた慢性肝疾患関連サルコペニア症例の集積と血液検体の採取は既に開始しており、ヒト検体を用いた解析の準備は予定以上に進捗していると考えられる。 以上の状況を総合し、本研究の進捗を「やや遅れている」と判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度の検討では、慢性肝疾患関連サルコペニアモデルの確立には至らなかった。慢性肝疾患単独でのサルコペニアの再現は困難であると判断し、他のサルコペニアの誘因を加え、より実臨床に則した複合的なモデルとしての確立を目指す方針へ変換した。その一つとして、肥満や糖尿病を合併した非アルコール性脂肪性肝疾患モデルを使用する方針として、既に検討を開始している。具体的には、高脂肪・高コレステロール・高フルクトース含有の飼料でマウスを飼養し、非アルコール性脂肪性肝疾患を発症させた後、握力や筋重量の測定を行い、サルコペニア発症の有無を検討する。また、近年、重量以外にも筋肉中の脂肪量の増加といった“筋肉の質の変化”も重要とされており、筋中脂肪量について組織学的に検討する計画である。更に、慢性肝疾患の罹病期間や重症度がサルコペニア発症に寄与する可能性があることから、通常より長期間飼養したマウスを用いた解析も検討している。 マウスモデルの確立が遅れていることから、ヒト検体を用いた解析を更に進める事を計画している。慢性肝疾患患者を対象に、握力測定、筋肉量評価のためのCT検査、血液検体の採取は既に開始しており、症例の集積は順調に進んでいる。血液検体よりエクソソームの単離を行い、エクソソーム内RNAやタンパク質などを解析し、サルコペニア症例で有意に変化している成分の同定を試みる計画としている。エクソソーム単離法としては、ポリマー沈殿法がより高収率であり、また簡便であるために多数の検体処理が可能であることから、ヒト検体の解析にはポリマー沈殿法を使用し、研究の効率化を計る計画である。
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Causes of Carryover |
マウス飼養期間の調整に伴い、マウス検体回収の一部が次年度に持ち越されたため、当初予定していたマウス標本作成費用の一部が年度内に執行できなかった。次年度使用額を本検体の標本作成費用として使用する計画である。
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