2019 Fiscal Year Research-status Report
タンパク質間相互作用を利用した乳癌細胞由来エクソソームの分子機構の解明
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19K16548
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
岩渕 英里奈 東北大学, 医学系研究科, JSPS特別研究員(PD) (70837278)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 乳癌 / タンパク質間相互作用 |
Outline of Annual Research Achievements |
乳癌は邦人女性の代表的な悪性腫瘍であり,その生物学的特徴を理解し,克服することは大きな課題である.近年,癌細胞や間質の正常細胞から分泌されるエクソソームが癌の機能に関わることが報告されており,エクソソームの機能解析は乳癌の生物学的特徴を理解する際に重要である.これまで,エクソソーム研究は血清や尿,培養細胞上清などが用いられることが多く,病理組織標本上での発現意義を検討した研究はほとんど行われていない.そこで,本研究ではヒト乳癌組織におけるエクソソームマーカーの発現意義を検討した.また,乳癌ではER (estrogen receptor ),PR (progesterone receptor),HER2 (human epithelial growth factor receptor type 2) の発現により診断・治療が行われるため,これらの発現を利用した乳癌のサブタイプ分類を行い,サブタイプ別の評価を行った. その結果,エクソソームマーカーは癌細胞の細胞膜および細胞質に陽性像が検出された.さらに,これらのタンパク発現と臨床病理学的因子との関係を検討したところ, 検討したエクソソームマーカーのうちの一つはHER2発現と正相関が認められ,また別のエクソソームマーカーではERおよびPRと逆相関し,増殖マーカーKi67とは正相関することが分かった.さらに,乳癌のバイオマーカーの発現から4つのサブタイプに分類して解析を行ったところ,ER陽性HER2陰性乳癌ではKi67と正相関が認められた一方で,3種類全てのバイオマーカー発現が陰性のトリプルネガティブ乳癌では,Ki67と逆相関を示した.以上の結果から,本研究で検討したエクソソームマーカーの発現は,乳癌のサブタイプによって,乳癌の進展に関して異なる指標となり得ることが示唆された.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は,エクソソームマーカーの発現を乳癌病理標本上で解析する意義を明らかにし,さらにその意義が乳癌サブタイプによって異なることを示唆する結果も得られた.一方で乳癌サブタイプごとに解析するためには症例数が十分ではないことから,今後乳癌サブタイプに着目してさらに症例数を追加し,乳癌サブタイプごとの発現意義を明らかにしていく必要があると考えられる.また,エクソソームマーカーと相互作用すると予想したタンパクについて近接ライゲーションアッセイを用いた検討を行っているが,陽性像の検出には至っていない.原因として,実際にタンパク質間相互作用が生じていないことと,タンパク質間相互作用候補タンパクの一次抗体が十分に機能していないことが考えられる.そのため,現在抗体の選定を含めた条件検討を進めている.
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Strategy for Future Research Activity |
当初の予定通りの研究を継続することに加え,タンパク質間相互作用候補タンパクに対する抗体の選定を進めていく.また,近接ライゲーションアッセイにて陽性像を検出できないことから,実際に相互作用が生じていないことが原因とも考えられる.そのため,より広範に候補タンパクを探索する必要があり,他の候補タンパクについても解析を進めていく.ヒト乳癌組織を用いた解析に関しては乳癌サブタイプごとに症例数を追加し,それぞれのサブタイプごとでのさらなる解析を進めていく.
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Causes of Carryover |
次年度初めに海外学会への参加を予定していたことから,旅費として次年度に計上する予定であった.さらに,新型コロナウイルス感染拡大の影響により,今年度中に参加を予定していた海外学会への参加を中止したことに加え,海外からの輸入が必要となる試薬の納品にも遅延が生じてしまい,実験を次年度に行うこととした. 次年度は当初の予定に加えて,タンパク質間相互作用候補タンパクに対する抗体の選定,広範な候補タンパクの探索,およびタンパク結合部位の解析のために支出する予定である.
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