2020 Fiscal Year Research-status Report
膵臓のKRAS変異バリエーションと癌抑制遺伝子異常による膵がん発生リスク予測
Project/Area Number |
19K16576
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
大森 優子 東北大学, 医学系研究科, 助教 (90827833)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 膵管内乳頭粘液性腫瘍 / 膵上皮内腫瘍病変 / 膵癌 / 悪性化予測モデル |
Outline of Annual Research Achievements |
膵管内乳頭粘液性腫瘍(以下、IPMN)と背景膵の微小膵管内病変を対象としたKRAS、GNAS、CDKN2A、TP53、SMAD4、STK11等を標的としたターゲットシーケンスにより、以下の知見を見出した。 1) 腸型IPMNは胃型IPMNを母地として発生し、CDX2の制御を受けることで腸型形質を獲得し、CDKN2AやTP53、WNT経路分子異常の蓄積により悪性化することを報告した(Omori Y., et al. Virchows Arch, 2020) 。 2) STK11異常を有するIPMNの5つの特徴:KRAS機能活性化変異と相助し、特徴的な形状のIPMNを形成する;IPMNの悪性化に関与し、治療経過を悪化させるリスク因子となる;膵がんドライバー遺伝子であるTP53やSMAD4に先行して異常が生じる;リン酸化AMPKα発現の低下により、細胞内代謝を変化させる;転写制御因子であるSnailの発現上昇により、細胞接着性を低下され、浸潤や転移に関与する、を報告した(Omori Y., et al. Ann Surg, 2021)。本研究成果によりIPMN患者の追跡観察におけるSTK11を標的とした膵臓癌の早期発見やSTK11-AMPK経路に対する新規治療戦略の開発が期待される。 3) 胃型、腸型、膵胆道型、好酸性細胞型の4つの上皮亜型が混在するIPMNの発生進展経路には、同一の遺伝子変異を共有しながら、新たな遺伝子変異の蓄積により変化するprogressiveパターン、一部の遺伝子変異を共有しながら、異なる遺伝子変異が蓄積し、異なる上皮亜型が発生するdivergentパターン、独立した腫瘍性クローンに始祖するindependentパターンが存在することを報告した(Kobayashi T, Omori Y., et al. J Gastroenterol, 2021)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
課題研究を遂行する中で、IPMNの発癌に関する新たな知見と課題を見出した。 1) IPMNは膵胆道癌、腸型、胃型の3つの上皮亜型に分類され、それぞれ特徴的な病理学的、臨床学的特徴を有するが、これまで、IPMNの上皮亜型に着目した分子学的解析は行われておらず、亜型別の分子病理学的特徴を基盤としたIPMN診療の構築が求められている。本研究を進める中で、膵胆道型ではSTK11、p16、p53、SMAD4、腸型ではp16、p53、β-catenin発現異常に示されるWNT経路が悪性化に関与する主たる遺伝子異常であることが明らかとなった。また、GNASの増幅は腸型IPMNにおいて、有意に浸潤癌発生のリスク因子であったた。対して、胃型では、既知の分子異常は有意に低頻度であり、胃型IPMNの悪性化には未解明の遺伝子異常が関与していることが示唆された。癌抑制遺伝子の蓄積数が多いほど予後不良であり、IPMN患者の予後の層別化に寄与する。今後、先進ゲノム解析研究推進プラットフォームの先進ゲノム支援を得て、胃型IPMNの悪性化分子機構の解明を目指す。 2) 膵癌の前癌病変には、膵上皮内腫瘍性病変(以下、PanIN)とIPMNの2つの膵管内腫瘍が知られている。それらが浸潤し、浸潤性膵管癌を形成すると、その予後は極めて不良である。PanINとIPMNは、いずれも低異型度腫瘍(腺腫)、高異型度腫瘍(上皮内癌)を経て浸潤癌に至る多段階発癌が知られているが、浸潤癌“発生”の分子学的機構は明らかでない。課題研究を遂行する中で、膵管内腫瘍の浸潤開始時には、浸潤能と細胞回転休止を同時に制御する可逆的なメカニズムが存在することを見出した。今後、先進ゲノム解析研究推進プラットフォームの先進ゲノム支援を得て、膵管内腫瘍の浸潤開始を制御する分子機構の解明を目指す。
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Strategy for Future Research Activity |
1) 胃型IPMNの悪性化分子機構の解明:高異型度胃型IPMNのエキソーム解析により、特有の遺伝子異常候補を選定した後、多数例(胃型群 vs 非胃型群、低異型度、高異型度、浸潤癌)を対象とした標的遺伝子解析を行い、胃型IPMNにおける特異性と多段階発癌への関与、また臨床病理学的所見との関連性を明らかとする。 2) 膵管内腫瘍の浸潤開始を制御する分子機構の解明:膵管内腫瘍の浸潤先進部のトランスクリプトーム解析、メチル化解析により、エピジェネティック機構の解明を目指す。制御の中心を担うと予測される分子を標的としたin vitro、in vivoでの機能解析を行う。
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Research Products
(7 results)