2019 Fiscal Year Research-status Report
Survival strategy of Toxoplasma gondii in various human cells.
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19K16628
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
伴戸 寛徳 東北大学, 農学研究科, 特任助教 (60724367)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | Toxoplasma gondii / 潜伏感染虫体 |
Outline of Annual Research Achievements |
トキソプラズマは全ての有核細胞に感染できるが、特定の細胞(臓器)でのみ潜伏感染形態へと移行することが知られており、中でも脳への潜伏感染は、脳の機能障害など重篤な症状を引き起こす。潜伏感染に移行することでトキソプラズマは宿主免疫から逃れ、残存し続けることができるが、なぜトキソプラズマは脳細胞内で潜伏感染虫体を形成できるかはほとんど明らかとなっていない。そこで本年度ではまず、ヒトの脳細胞においてトキソプラズマがIFN-γ依存的な抗トキソプラズマ応答を回避し、潜伏感染虫体へステージ変換するメカニズムを明らかとすることを目指した。まず、ヒトの脳を構成する細胞の中で、トキソプラズマの潜伏感染が起こりやすい細胞が存在するのかを確かめるために、グリア細胞、アストロサイト、神経細胞を用いて潜伏感染虫体へのステージ変換を、IFN-γ刺激によって誘導した。その結果、トキソプラズマは神経細胞内でのみ潜伏感染虫体を形成した。そこで次に、なぜ神経細胞でのみIFN-γ依存的な抗トキソプラズマ応答を逃れて潜伏感染虫体の形成が誘導されるか、そのメカニズムの解明を目指した。まず、ヒトの細胞内において抗トキソプラズマ応答に重要な役割を果たす分子であるIDO1の発現を比較した結果、各細胞間で違いは見出されなかった。そこで次に、IFN-γ刺激によってグリア細胞、アストロサイト、神経細胞における代謝変化の比較解析を行った結果、神経細胞内ではIFN-γ依存的に、グルコース濃度が著しく低下することが明らかとなった。さらに、グルコース分解酵素の阻害剤を投与した神経細胞における潜伏感染虫体へのステージ変換の誘導を行ったところ、IFN-γ依存的に潜伏感染虫体が形成されないことまで明らかとした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
なぜ、どのような細胞にも感染できるトキソプラズマが、ヒトに感染した場合、特定の組織から分離されるのかという点と、どのようにしてトキソプラズマは特定の細胞では宿主免疫を逃れているのかという点を明らかとするためにはまず、トキソプラズマがどのような細胞で宿主免疫を逃れているのかを特定する必要がある。本年度の研究成果によって、抗トキソプラズマ応答にとって重要なIFN-γ刺激が、脳細胞、特に脳神経細胞においてトキソプラズマの潜伏感染誘導に関与することを初めて見出した。これは、トキソプラズマが脳の神経細胞内では、IFN-γ依存的に潜伏感染虫体の形成が誘導されることで、抗トキソプラズマ応答を逃れていることを示唆する結果である。さらに、ヒトの脳細胞内における宿主-病原体間相互作用の一つとして、トキソプラズマが潜伏感染虫体へステージ変換するために重要な宿主因子の一つを同定した。これまでに、人為的にトキソプラズマにストレスを与えることで、潜伏感染虫体へのステージ変換を誘導できることは知られていた。また、マウスの細胞では一酸化窒素(NO)がステージ変換の誘導に重要な役割を果たしている可能性は示唆されていたが、ヒトの細胞内において重要な宿主因子は全く不明であった。本研究成果は、ヒトの感染細胞内で潜伏感染虫体へステージ変換に関与する宿主因子は、NOではなくグルタミンであることを示唆した点も重要な発見だと言える。以上の結果から、本研究はおおむね順調に進展していると考える。
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Strategy for Future Research Activity |
一般的に、神経細胞では神経伝達物質であるグルタミン酸が多く蓄積されており、グルタミンの代謝が活発であることが知られている。また、脳神経細胞はグルタミン酸をグルタミンに還元する経路を持たない。一方神経と直接接触して強い相互作用をもつアストロサイトは、グルタミンを神経細胞に直接供給するシステム、またグルタミン酸を取り込んでグルタミンを細胞内で合成する経路をもつ。このように神経細胞ーアストロサイト間に特異的に存在する相互作用は、グルタミンーグルタミン酸経路と呼ばれている。このような理由から、神経細胞とアストロサイトの相互作用も重要であると考えられる。そこでまず次年度は、神経細胞とアストロサイトを用いた共培養系の構築と、これら共培養系を用いたトキソプラズマの感染実験系の構築を行う。これまでのところ、アストロサイトは細胞内でグルタミン酸をグルタミンに還元する経路をもつことから、IFN-γ依存的なグルタミンの枯渇は起こらず、潜伏感染虫体へのステージ変換が誘導できないことを明らかとしている。しかしながら、アストロサイトにトキソプラズマを感染させると、グルタミン酸トランスポーターの活性化が著しく抑制されていることを示唆する結果も得られている。これは、神経細胞ーアストロサイト間に存在するグルタミンーグルタミン酸経路の破綻を引き起こしている可能性を示唆している。そこで今後は、神経細胞ーアストロサイトの相互作用と、これらの破綻に関与するトキソプラズマの病原因子の同定を行なっていく予定である。
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Causes of Carryover |
本年度は予想外に興味深い現象を見出し、これらの現象の確認に重点をおいたため当初の計画よりも 予算を必要としなかった。しかし、本年度に発見した新規の病原性因子の作用機序の解明を遂行するためには、次年度には予定よりも予算を必要とすることが考えられる。具体的には、遺伝学的な解析や分子生物学的解析に使用する試薬、網羅的な探索等に必要とするため、これらに使用する予定であ る。
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Research Products
(4 results)