2020 Fiscal Year Research-status Report
Survival strategy of Toxoplasma gondii in various human cells.
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19K16628
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
伴戸 寛徳 東北大学, 農学研究科, 助教(研究特任) (60724367)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 潜伏感染虫体 / T.gondii / ヒト / 脳神経 |
Outline of Annual Research Achievements |
トキソプラズマは全ての有核細胞に感染でき、宿主に感染したトキソプラズマは急増虫体(Tachyzoite)として増殖して全身へ感染を広げていくが、特定の細胞や組織に感染すると、ステージ変換を起こして潜伏感染虫体(Bradyzoite)を形成する。トキソプラズマが潜伏感染しやすい組織として脳が知られているが、なぜトキソプラズマは脳細胞内でステージ変換を起こすのかはほとんど明らかとなっていない。令和2年度では、神経細胞でのみIFN-γ刺激依存的にBradyzoiteを形成するメカニズムの解明を目指した。まず、マウスのマクロファージでは、IFN-γ刺激依存的に発現誘導される一酸化窒素合成酵素(iNOS)によって合成される一酸化窒素(NO)がBradyzoiteの形成に重要な役割を果たしていることが知られていることから、脳神経細胞におけるIFN-γ依存的なBradyzoite形成へのNOの関与を検証した。その結果、脳神経細胞では、iNOSのアイソタイプであるnNOS依存的にNOが産生されていることを明らかとしたため次に、nNOS特異的な活性阻害剤を用いた実験を行なった。その結果、NOの産生を抑制した細胞でもIFN-γ依存的にBradyzoiteが形成されることを明らかにした。また、神経細胞にトキソプラズマが感染すると、脳神経細胞に発現しているアミノ酸トランスポーターの一つであるグルタミントランスポーターSLC38A1とSLC38A2の活性が抑制され、細胞内グルタミン濃度が低下することを明らかにした。さらに、グルタミナーゼ阻害剤によって細胞内グルタミン濃度の低下を寛解すると、IFN-γ依存的なBradyzoite形成が阻害されることまでを明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
なぜ、トキソプラズマは全ての有核細胞に感染することができるにもかかわらず、特定の組織でのみBradyzoiteを形成するのかという点を明らかとするためにはまず、トキソプラズマがどのような宿主因子を認識してステージ変換を行なっているのかを特定する必要がある。令和2年度の研究成果によって、これまでマウス細胞で知られていたBradyzoiteの形成誘導に重要な宿主因子であるNOがヒトの脳神経細胞では重要ではないことを初めて明らかにし、NOの替わりに、細胞内グルタミン濃度の低下がステージ変換の重要なトリガーとなっていることを明らかとした。さらに、その現象にはトキソプラズマの新規の病原性分子が関与していることを見出した。また、脳神経特異的に発現しているグルタミントランスポーターSLC38A1とSLC38A2が病原性分子の標的であることを明らかにした点も重要な発見だと言える。以上の結果から、本研究はおおむね順調に進展していると考える。
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Strategy for Future Research Activity |
一般的に、脳神経細胞では主要な神経伝達物質であるグルタミン酸とアンモニアがグルタミン代謝によって生成され、このサイクルが早いターンオーバーで起こっていることが知られている。グルタミン酸やアンモニアの蓄積は細胞毒性があるため、アストロサイトがこれらを取り込んでグルタミン合成酵素を用いてグルタミンを再合成し、神経細胞に供給するという特殊な“グルタミンーグルタミン酸経路”と呼ばれるサイクルが神経細胞とアストロサイトの間には存在する。トキソプラズマが潜伏感染している脳ではこの経路の破綻がしていることが示唆されていたが、潜伏感染との直接的な証明はなされていない。令和2年度の成果から、グルタミンーグルタミン酸経路にとって重要なグルタミントランスポーターの活性をトキソプラズマが阻害していることを明らかにしたことからも、潜伏感染とグルタミンーグルタミン酸経路に何らかの関連性があると考えられる。そこで今後は、共培養系や3D培養系を用いて、人の脳組織を模した環境を作成し、神経細胞とアストロサイトが相互作用を有する環境における潜伏感染メカニズムの解明を、グルタミンの動態に着目して進めていく予定である。また、iPSC-derived神経細胞やアストロサイト、もしくは初代培養細胞の神経細胞とアストロサイトを使った実験も行う予定である。
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Causes of Carryover |
新型コロナウィルス蔓延防止に伴う業務停止や、物流の遅延、外部委託の受託停止などの影響により、本年度予定していた実験が一部実施できなかったため。
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Research Products
(10 results)