2019 Fiscal Year Research-status Report
OXA型カルバペネマーゼ産生菌の蔓延を促進する遺伝的要因の解明
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19K16640
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
竹内 壇 大阪大学, 微生物病研究所, 特任研究員 (30585849)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 外膜ポリン遺伝子 / 全ゲノム解析 / 前向き疫学研究 |
Outline of Annual Research Achievements |
令和元年度の研究実績としては、タイ国で得られた577株のカルバペネマーゼ産生肺炎桿菌(以下CP-KP)について外膜ポリン遺伝子の配列解析を行い学会発表を行うとともに、病院内におけるカルバペネマーゼ産生菌(以下CPE)伝播の複合的要因を探るためタイ国ロイエット病院での前向き疫学研究を開始した。 OXA型カルバペネマーゼ産生菌の蔓延を促進する遺伝的要因として、薬剤耐性に寄与する外膜ポリン遺伝子に着目した。これまでの予備実験から、OXA型産生菌では他の酵素型産生菌と比較してポリン遺伝子に変異がある事が推察された。そこで分離菌数が多いCP-KPを対象とした主要ポリン遺伝子の配列比較を行った。ゲノム配列は次世代シークエンサーを用いて取得した。その結果、調査した全CP-KP株のうち約50%において薬剤通過障害を引き起こし得る遺伝子変異を認めた。主要ポリン遺伝子としてはOmpK35とOmpK36が知られているが、前者ではpremature stop codonによる変異が、後者ではポリン内孔を構成するloop3領域のアミノ酸挿入・欠損による変異が多く認められた。OXA型CP-KPと他型とを比較したところ、亜型であるOXA-232型産生菌の多くで両方の主要ポリンに変異がある高い事が判明した。ここまでの研究結果については、第93回細菌学会総会でポスター発表を行った。 上記に加え、OXA型を含めたCPEの院内伝播様式とその要因を探るため、分離菌数の多いタイ国ロイエット病院を対象とした前向き疫学研究を開始した。本研究では市中から病院内へのCPEの持ち込み割合、入院後のCPE定着までの時間経過、入院患者における手を介したCPEの伝播割合などを明らかとする事を目的としている。現在同病院および現地スタッフと連絡を取りながら研究の実施について調整中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
全ゲノム解析についてはポリン遺伝子の変異以外についての解析が遅れている。解析に使用するプログラム作成や、研究結果の論文作成に時間を要している事が遅れの原因となっている。また前向き疫学研究については、世界的なコロナウイルスの蔓延によりタイ国への渡航が困難な状況が続いており遅れの原因となっている。現地スタッフとは連携をとっているが、タイ国においてもウイルスの蔓延が医療状況を逼迫しており本研究への寄与度がやや低下していると考える。
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Strategy for Future Research Activity |
ゲノム解析では、既に取得している全ゲノムデータを用いた配列解析を進めるとともに、前向き研究で得られた新規株についても次世代シークエンサーを用いて配列取得を目指す。これまでは肺炎桿菌を中心とした解析を行ってきたが、大腸菌においてもOXA型産生菌が複数認められる事から同菌種へも解析対象の幅を広げる。対象遺伝子として外膜ポリン以外の遺伝子についても注目していく。 研究計画に記載している、in vitroにおける外膜ポリン変異の検出についても検討を行う。既に開発済であるカルバペネマーゼの分解を測定する系に、薬剤排出ポンプを阻害する系を組み合わせる事で、各菌株におけるポリン通過障害の程度を簡便にスクリーニングできる系を開発する。 前向き疫学研究は、研究のアウトカムを絞る事で、効率よく研究推進を行う事を目指す。再開の時期については今後の社会情勢によるところが大きいが、引き続き現地スタッフとメール等にて連絡を取りつつ研究基盤を維持していく。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた理由としては、R1年度における主な研究内容がゲノムデータの解析であった点が挙げられる。解析プログラムの作成に時間を要したため新たな研究資材の購入を控えた結果、繰越金の割合が多くなった。R2年度においては、翌年度分として請求した助成金と合わせて、新規細菌株に対する次世代シークエンサーを用いた配列取得を行う費用に充てる。また海外ジャーナルへの論文投稿が控えており、投稿日にも費用を割り当てる。その他、タイ国での前向き研究を進めるための渡航費やin vitroの研究で使用する新たな研究資材の購入を計画している。
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Research Products
(1 results)