2020 Fiscal Year Research-status Report
OXA型カルバペネマーゼ産生菌の蔓延を促進する遺伝的要因の解明
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19K16640
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
竹内 壇 大阪大学, 微生物病研究所, 特任研究員 (30585849)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | OXA-181型カルバペネマーゼ / 菌のクローナルな拡散 / 低いプラスミド伝播能 |
Outline of Annual Research Achievements |
OXA型カルバペネマーゼ産生菌の蔓延形式を探るため、タイ国から入手した臨床分離菌株の全ゲノム情報を用いて染色体遺伝子の系統解析を進めた。その結果、OXA型産生菌はその他のカルバペネマーゼ産生菌と比較して、SNPベースで非常にクローナルな集団である事が判明した。Sequence type (ST)毎に検討したところ、世界的にエピデミッククローンとして認知されているclonal group (CG) 258に属するST11、ST340といったSTが地域間を超えて特に蔓延している状況が見えてきた。これらの菌はOXA型遺伝子の亜型であるOXA-181型をプラスミド上に保持していたが、プラスミド伝播試験の結果、該当プラスミドの水平伝播能力は検出限界以下であった。以上の検討から、タイ国におけるOXA型カルバペネマーゼの蔓延はプラスミドの水平伝播による寄与は少なく、菌のクローナルな拡散が主な要因である事が確認された。現在上記を含めた結果を国際雑誌に投稿中である。 OXA型カルバペネマーゼの酵素活性についても検討を行った。同活性の比較については、当教室で開発し国際誌に報告済みの方法(以後、UV法)で行った。その結果、亜型毎に活性のパターンがやや異なる事がわかった。具体的にはOXA-232型ではどの菌株でも基質分解パターンが同じであるのに対して、OXA-181型では菌株によってそのパターンにばらつきを認めた。菌体の超音波溶解液を用いた検討から、産生量のばらつきは初期蛋白量の違いである事が示唆された。しかしながら、これら酵素活性の違いとカルバペネム耐性度との間に明らかな相関は認められなかった。 菌体外膜ポリンの機能評価系の作成も検討を行った。菌体外膜ポリンの機能阻害物質を用いて、UV法にてカルバペネマーゼ活性を測定したが、ポリン阻害による活性の違いは認めなかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
これまでOXA型カルバペネマーゼのクローナルな拡散を示唆するデータはあったが、プラスミド伝播実験や全ゲノムの詳細解析による確認はできていなかった。本年度の研究の進捗により、特にOXA-181型産生菌が地域間を超えた拡散をしている事が分かった事は大きな進捗であった。また、当初からの課題であるポリンの機能測定系の開発について、既存の測定法を発展するだけでは難しい事が示唆された。これはネガティブな結果であり、今後の検討課題と考えている。 研究期間全般に言える事であるが、コロナの影響で期研究が中断を余儀なくされる事が多々あり、そういった意味で研究の進展はやや抑制されたと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
OXA型カルバペネマーゼ産生菌の蔓延促進因子についての検討は、今後OXA-181型を産生するST11およびST340株を対象として行う。まずタイで採取されたこれらの菌株の染色体情報について国際比較を行い、タイ国から採取された株の世界における立ち位置を明らかとする。また他のST株や他菌種株との競合阻害試験を行うことで、拡散能力の実験室レベルでの評価を行う。 OXA型カルバペネマーゼ産生菌の検討を行う過程で、もう一つの酵素型であるNDM型が主にプラスミドを介した拡散を示す事がわかった。OXA型の拡散とは対照的であり、公衆衛生学的にも重要な課題である事から、当初の研究計画を一部変更してNDM型産生菌のプラスミド解析についても検討している。
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Causes of Carryover |
当該年度にはタイ国への渡航を計画していたが、コロナ感染症の拡大により海外渡航が困難となり次年度使用額が生じた。次年度には渡航制限が緩和されると考えている他、研究課題の一部追加・変更を行ったため、これらに必要な経費として使用する計画である。
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