2019 Fiscal Year Research-status Report
組換えウイルスを用いたエボラウイルスポリメラーゼ複合体の微細構造解析
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19K16666
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Research Institution | National Institute of Infectious Diseases |
Principal Investigator |
高松 由基 国立感染症研究所, ウイルス第一部, 主任研究官 (00750407)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | エボラウイルス / ポリメラーゼ / VP30 / 組換えウイルス / 電子顕微鏡解析 / ライブセルイメージング解析 |
Outline of Annual Research Achievements |
2014年に西アフリカで起きたエボラウイルス感染症の大流行は、1万人以上の死者を出した。感染はアフリカにとどまらず、アメリカ・ヨーロッパでも感染者が出た。エボラウイルスに対するワクチンおよび治療法は確立していないため、その感染症対策は国際的に取り組むべき重要な課題と言える。 エボラウイルスのリバースジェネティクスは、特別な封じ込め施設であるBSL-4を必要とするため、ほとんど研究が進んでいない。そこで、申請者が使用許可を持つドイツ国マールブルグのBSL-4実験施設で、リバースジェネティクスを用いて組換えウイルスを構築する。構築したウイルスは大量培養・精製し、精製したウイルスを不活化し、マールブルグでスクリーニングした後、所属研究室に送付しクライオ電子顕微鏡および免疫電顕法を使った微細構造解析に進む。 本研究では、エボラウイルスのポリメラーゼと転写因子に着目し、組換えによって生じるウイルス粒子構造の違いを電子顕微鏡法で比較解析することで、ポリメラーゼ複合体の立体配置を明らかにすることを目的とする。さらに、構築した蛍光組換えウイルスを用い、感染細胞内での転写・複製におけるポリメラーゼ: Lと転写因子: VP30の時間的、空間的変化をライブセルイメージングで観察する。以上から、これまでわからなかった転写・複製におけるウイルスタンパク質間の相互作用を明らかにする。したがって本研究は、転写・複製の制御機構を解明するための基盤になるとともに、ウイルスのアセンブル阻害剤やポリメラーゼ阻害薬の開発に貢献することが期待される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
エボラウイルスのリバースジェネティクスはマールブルグのBSL-4実験施設で進めた。具体的にはポリメラーゼであるLタンパク質と転写因子であるVP30タンパク質を蛍光タンパク質またはペプチドタグで標識した。この組換えタンパク質を全長ゲノムに導入することで、組換えウイルスを作製した。Lタンパク質は、N末端・C末端へのタグ融合によりポリメラーゼ活性が低下することがわかっているのでLのオープンリーディングフレームの非機能領域にタグを挿入し、全長のゲノムに組み込んだ (EBOV-LmCherry)。VP30はC末端側に蛍光タンパク質標識し、全長ゲノムにVP30と組み換える形で挿入した(EBOV-VP30TagRFP)。また、ヌクレオカプシドを免疫沈降法で抽出できるように、VP30をペプチドタグにより標識した組換えウイルスを構築した(EBOV-VP30Flag)。また、それぞれの組換えウイルスの性状解析を行なった。 これまで精製ウイルスの電子顕微鏡解析では、エンベロープがマスクすることで内部構造であるヌクレオカプシドが描出できないことが課題であった。そこで、ヌクレオカプシドを感染細胞から抽出するために二つのアプローチで実験を進めた。一つは感染細胞からアセンブルされたヌクレオカプシドを抽出する方法で、細胞を溶解するための溶解バッファーの組成(種々の界面活性剤と濃度)、反応時間、各種密度勾配分画法を試行した(CsCl、ショ糖、グリセロール、Optiprep)。また、Flag標識したVP30(EBOV-VP30Flag)を用いて免疫沈降法によるヌクレオカプシドの抽出も進めた。さらにウイルス粒子からエンベロープのみを溶解しヌクレオカプシドを取り出す方法も試した。このアッセイ系は感染性ウイルスではなくVLPを用いて進めた(使用する界面活性剤の種類、反応時間、適切なバッファーの選択などを検討)。
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Strategy for Future Research Activity |
これまで二つのアプローチでヌクレオカプシドを精製する手法の構築を目指してきた。一つは感染細胞からアセンブルされたヌクレオカプシドを抽出するアプローチで、細胞を溶解する方法と、その後の密度勾配分画法について種々検討した。その結果、ヌクレオカプシドタンパク質を含む分画を精製することができたが、残念ながら細胞の溶解とともにヌクレオカプシドの構造も崩れてしまい、クライオ電子顕微鏡解析に進むことができなかった。二つ目の方法としてウイルス粒子からエンベロープのみを溶解するための界面活性剤の組成を検討し、ヌクレオカプシドからエンベロープを外すことができたが、分画を分ける方法が最適化できてない。そこで今年度は、まずは免疫電顕法でポリメラーゼの立体配置を決定したい。またヌクレオカプシドを分画することができたら、京都大学と大阪大学のクライオ電子顕微鏡を用いて、杉田博士と野田博士にご協力頂き微細構造解析を進める方針である。 一方で、前駆研究で確立したライブセルイメージング法(Takamatsu, et al. PNAS. 2018)を用いて、ポリメラーゼ複合体を構成するウイルスタンパク質の相互作用解析を進める。構築した組換え蛍光ウイルスを用いた実験を行うとともに、タンパク質発現系を用いた非感染性のライブイメージングシステムを用いて、ヌクレオカプシドの合成・輸送に重要なウイルスタンパク質ドメインの同定を行う。転写制御因子VP30の可逆的リン酸化がエボラウイルスの増殖に必須であることがわかっているので、ヌクレオカプシドに含まれるVP30のリン酸化の状態について性状解析を進める予定である。以上を通して、ポリメラーゼ複合体の感染細胞内での時間的・空間的なオリエンテーションを決定したい。
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Research Products
(12 results)