2019 Fiscal Year Research-status Report
制御性T細胞の系列安定性を規定する細胞内代謝メカニズムの解明
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19K16684
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
中島 啓 東京大学, 大学院薬学系研究科(薬学部), 助教 (80771196)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 制御性T細胞 / DNA脱メチル化 / TSDR / TCRシグナル / mTOR / アミノ酸代謝 |
Outline of Annual Research Achievements |
転写因子Foxp3を発現した制御性T細胞(Treg)は、さまざまな免疫応答を抑制することで免疫寛容、免疫恒常性の確立・維持に必須の役割を担っている。これまでにTregへの運命決定はFoxp3発現の有無によって一義的に規定されるわけではなく、Treg-specific demethylation region [TSDR]と呼ばれるTreg特異的なエピゲノム領域のDNA脱メチル化に基づく転写制御により補完されることがわかってきたが、現時点ではこのエピゲノム変化の分子基盤はほとんど明らかにされていない。そのため、例えばin vitroで安定的にFoxp3発現を獲得したTregを作り出すことが出来ず、Tregを用いた細胞療法にとって大きな障害となっている。 申請者はこれまでに、TCR刺激依存的な細胞内代謝リプログラミングが、Treg特異的なDNA脱メチル化制御に大きく寄与する知見を得た。そのため、本研究はTCR刺激依存的な細胞内代謝変化を介したTreg特異的エピゲノム制御の分子メカニズムを明らかにすることを研究目的とする。これまでの研究で、どのようなTCRシグナルがTSDR脱メチル化に寄与しているのかをTCR各シグナル特異的な阻害剤を用いて検証したところ、mTORシグナルがTSDR脱メチル化制御に大きく寄与していることが分かった。また、mTORシグナルを活性化することが知られているアミノ酸(グルタミン)代謝依存的にもTSDR脱メチル化が大きく変化する知見が得られた。今後は、TCR下流ならびにアミノ酸代謝下流のmTORシグナルがどのようにDNA脱メチル化を制御しているのか、その分子メカニズムの解明を明らかにすることを試みる。本研究成果により、自己免疫疾患や移植臓器拒絶に対して、Treg代謝活性を標的とした新たな薬剤・治療法が開発されることが期待される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
これまでにナイーブT細胞からTGF-β存在下でTCR刺激を与えることで誘導される“iTreg”のTSDR脱メチル化にどのような因子が寄与しているのか、具体的には明らかにされていなかった。そのため、iTregのTSDR脱メチル化がある程度亢進するという研究報告と全く脱メチル化が見られないという研究報告があり、一定の見解は得られていなかった。我々はその問題に対して、自己免疫寛容に必須のTregという細胞がより自己反応性の強いTCR刺激により分化してくるという現象に着目し、TCRシグナルがiTregのTSDR脱メチル化制御に重要なのではないか、と考えた。そこで、iTreg分化誘導におけるTCR刺激の寄与について検証したところ、TCR刺激が強く、さらに持続的に続くほどTSDR脱メチル化が亢進することが分かった。そこで、持続的なTCR刺激を加えた時に、その下流でどのようなシグナルによってTSDR脱メチル化が制御されているのかを、TCR下流の各シグナル特異的な阻害剤を用いて検証した。その結果、mTORシグナルがTSDR脱メチル化に大きく寄与していることが分かった。さらに、TCR刺激の持続時間依存的にmTORシグナルが活性化していることも確認できた。以上の結果から、強く持続的なTCRシグナルによって、mTORシグナルの活性化が制御を受け、TSDRの脱メチル化が変化していることが分かった。さらに、mRORシグナル活性に大きな影響を与えるアミノ酸(グルタミン)を除去した培地で、iTregを分化誘導したところ、そのTSDR脱メチル化が大きく低下することも明らかとなり、今後TCRシグナルと細胞内代謝がどのように協調してTSDR脱メチル化を制御しているのかを明らかにしたいと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
現在までのところ、mTORシグナルがTSDRのDNA脱メチル化を制御していることが明らかとなったが、その下流で具体的にどのようなメカニズムでエピゲノム変化が制御されているのかは明らかになっていない。そこで、今後はその分子メカニズムを明らかにしたいと考えている。まず、TCR刺激依存的なiTregのDNA脱メチル化がDNA脱メチル化誘導酵素TET(Ten-eleven translocation)による能動的な制御を受けているのか否かを明らかにする必要がある。そこで、当研究室で掛け合わせを進めているTET2<flox>TET3< flox>>ROSA26<CRE-ERT2>マウスにタモキシフェンを投与し、TET2/3二重欠損マウス由来のナイーブT細胞からiTregを誘導し、TCRシグナルあるいはmTORシグナル依存的なiTregのDNA脱メチル化がTET依存によって制御されているのか否かを明らかにすることを目指す。TET依存が明らかとなった場合には、mTORは蛋白の合成・翻訳を担っているため、まずTCRシグナルの持続時間を変化させたときにFoxp3発現の安定化と相関してTETの発現増強が見られるか、転写、蛋白レベルで調べる。発現レベルで差が見られた場合は、TCR刺激時間の短い群あるいはラパマイシン添加群(すなわちFoxp3発現が不安定化する状況)にTET蛋白を強制発現させることでFoxp3発現が安定化するか検証する。さらに、mTORシグナル依存的にTSDR脱メチル化制御を担う重要な候補分子が見つかった場合は、候補分子をノックアウトあるいは強制発現させた時に同様の検討を実施し、TCR経路下流の候補分子がどのようにTET活性制御を担っているのか明らかにする。
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Causes of Carryover |
今年度は主に阻害剤を用いた検討を行い、次世代シークエンスなど大型予算の必要な実験を実施しなかったため、予定した使用額よりも下回った。
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