2019 Fiscal Year Research-status Report
腫瘍由来DAMPsによるT細胞の機能不全誘導メカニズムの解明と治療への応用
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19K16736
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
日比野 沙奈 東京大学, 先端科学技術研究センター, 特別研究員 (30836424)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | T細胞 / 抗腫瘍免疫応答 / 腫瘍微小環境 / オンコメタボライト |
Outline of Annual Research Achievements |
担癌個体においては、低酸素・低栄養の過酷な微小環境への曝露により大量の細胞死が起こり、ヒト固形癌組織における壊死(ネクローシス)細胞領域の大きさが患者の予後不良と相関することが様々な癌種において報告されている(Richards et al. Future Oncol. 2011)。申請者らのグループはこれまで、病態進展の過程で壊死を起こした癌細胞が放出する脂質や核内タンパク質が、マクロファージや好中球といった自然免疫細胞の機能制御を介して抗腫瘍免疫応答を負に制御することを明らかにしてきた(Hangai et al. Proc. Natl. Acad. Sci. U S A. 2016、未発表データを含む)。申請者はこれらの知見を踏まえ、進行性固形癌の排除に必須であるCD8+ T細胞を主体とした獲得免疫応答もまた、死細胞由来成分による負の制御を受けるのではないかと仮定した。実験的にネクローシスを誘導したマウス悪性黒色腫B16F10細胞から放出される分子群の中から T細胞機能の抑制因子の探索を行った結果、目的成分が非タンパク質の水溶性の低分子であることを見出した。さらに網羅的メタボローム解析を実施することで、既知の低分子代謝物XをT細胞機能の新規ネガティブレギュレーターとして同定することに成功した。代謝物Xは腫瘍増殖への寄与が明らかになっているオンコメタボライトであり、本研究成果は腫瘍微小環境下に特徴的なT細胞の新規活性制御メカニズムの存在を示唆するものである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2019年度は目的分子の同定まで完了させることができ、研究は比較的順調に進んでいると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
1. 代謝物XがT細胞応答を抑制するメカニズムを解明する。総プロテオミクス解析とリン酸化プロテオミクス解析を組み合わせることで、代謝物Xによる制御を受けるT細胞内分子やシグナル経路を明らかにする。 2. In vivoにおける抗腫瘍T細胞応答に対する、代謝物X及びその阻害剤や中和抗体の効果を検討する。担癌モデルマウスに対する腫瘍抗原特異的T細胞のadoptive transferの系を用いる予定である。 3. 担癌マウスの腫瘍局所や血中に存在する代謝物Xの濃度を定量し、腫瘍重量やT細胞応答の程度と相関するか検討する。また、公共のバイオバンクより様々な癌種の患者の血清サンプルを取得し、代謝物Xのヒト癌病態における意義を検討する。
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Causes of Carryover |
今年度は、本課題以外に交付されている研究費(特別研究員奨励費)や民間助成金を優先的に使用した結果、次年度使用額が発生した。次年度は、<今後の研究の推進方策>でも述べたように網羅的プロテオーム解析など比較的コストのかかる実験系を計画しており、それらの解析費用のために翌年度分として請求した助成金と合わせて使用する予定である。
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