2019 Fiscal Year Research-status Report
血球分化の各階層のクロマチン構造データを用いた成人T細胞白血病発症機構の解明
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19K16740
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
田中 梓 東京大学, 大学院医学系研究科(医学部), 特別研究員 (70749796)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 成人T細胞白血病 / ATAC-seq / クロマチン構造 |
Outline of Annual Research Achievements |
成人T細胞白血病ウイルスにより引き起こされる成人T細胞白血病 (ATL) の腫瘍細胞ではクロマチン構造にどのように異常が起きているのかを明らかにするための研究を進めている。 クロマチン構造を解析するためにすでに29例のATL症例のATAC-seqデータを取得済みである。既存の解析手法では様々な制限があるため、今年度は、健常人由来の様々な血球分画 (13種類77サンプル) との比較解析を容易に行うための手法開発を行った。クロマチン構造データの新規解析手法として、2つのサンプル間の違いをこれまでの相関係数により計算するのではなく、情報理論の分野で用いられているHamming距離という概念を用い、その後ward法でクラスタリングを行うと、非常に精度の高いクラスタリング解析結果を得ることができた。この手法を用いてATL症例サンプルの解析を行った。 ATLはそのほとんどがCD4陽性メモリーT細胞であると考えられてきたが、上述の解析手法を用いた解析からT細胞以外の細胞に非常に類似したクロマチン構造を有する症例があることがわかってきた。この結果をもとに、遺伝子発現解析の結果を見直すと、この細胞種特有の遺伝子を高く発現していることが新規に明らかになった。これらの結果を論文にまとめ、現在査読審査を受けている。 またATL様々な血球分画との比較し、ATL細胞でのみ特異的にクロマチンが開いている領域の絞り込みを行った。これらの領域の周辺にある1つの遺伝子の発現は実際ATL細胞でのみ高発現していたが、機能は全く未知であったため、機能解析を行った。その結果、この遺伝子はTGFbetaの前駆体を活性化型にさせる機能を有することがわかり、これに関しても現在データをまとめ論文を作成している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
新規で開発手法を用いて、成人T細胞白血病 (ATL) 29症例のクロマチン構造を解析した。ATLはCD4陽性メモリーT細胞に非常に類似していると考えられてきたが、クロマチン構造の解析結果から、T細胞だけでなくミエロイド系のクロマチン構造も有することがわかった。 これらの知見はATL細胞の発生機序を知る上で重要な情報になると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
血球分化のモデルにはいくつかある。代表的なものは、造血幹細胞はミエロイド系の前駆細胞とリンパ球系の前駆細胞の2つの前駆細胞に早い段階で分かれるというモデルであり、その他には、ミエロイド系の細胞が全ての血球細胞の基本となっているというミエロイド基本型モデルがある。前者ではT細胞と単球は分化の初期で経路が分かれるが、後者ではTリンパ球に分化する直前までミエロイド系の細胞を作る能力が保たれていると考えられている。 今年度明らかとなったミエロイド系の要素を有するATL細胞の存在は、未だ議論が続く血球分化のメカニズム解明にも貢献し得ると考えられ、今後はシングルセル解析を含めたより詳細なレベルでの解析を予定している。
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Causes of Carryover |
今年度は、データ取得のためのシークエンス代金やデータ保存のためのスーパーコンピューター利用金額が当初の予定より少なく済み、もう1つの研究費である特別研究員奨励費から多くを支出することができたため残額が生じた。 来年度は、その分、データ取得のためのシークエンスに多額の費用がかかるため、昨年度の残額を充当する。
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Research Products
(2 results)