2019 Fiscal Year Research-status Report
アミノ酸シグナル経路における輸送体LAT1下流の未知のリン酸化ネットワークの解明
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19K16743
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
岡西 広樹 大阪大学, 医学系研究科, 助教 (70792589)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | アミノ酸 / シグナル伝達 / プロテオミクス / リン酸化プロテオミクス / アミノ酸トランスポーター |
Outline of Annual Research Achievements |
タンパク質の翻訳後修飾リン酸化ネットワークは,がん細胞における異常な細胞増殖等を制御している.このタンパク質リン酸化ネットワークを,アミノ酸はシグナル分子として刺激する.がんの有用な治療標的として研究が進められるアミノ酸トランスポーターLAT1は,がん細胞特異的に発現しており,がん細胞では,LAT1 を起点とするアミノ酸シグナル機構が存在し,がん特異的な細胞内環境の形成に働いているものと考えられている.しかし,その全容にはまだ不明な点が多い.本研究では,LAT1アミノ酸シグナルに依存したタンパク質リン酸化ネットワーク動態を,IMACによるリン酸化濃縮法を用い, TMTラベル化比較定量リン酸化プロテオーム解析法によって明らかにすることを目的とする.本年度では,まず (1) 胆道がん細胞株7種類において,非常に特異性の高い競合的LAT1阻害薬KYT0353 (JPH203) の濃度/時間依存的な抗腫瘍作用について,WST assay による評価を行った.その結果,有意な抗腫瘍効果を示した細胞株のうち,(2) KKU-055, KKU-100, KKU-213, HuCCT1 について,細胞内タンパク質リン酸化変動および発現タンパク質変動を詳細に調べた。具体的には,LAT1阻害薬の添加の有無のそれぞれの条件で細胞株を培養し,24 時間処理した細胞サンプルから,相間移動溶解剤による抽出法でタンパク質を抽出・サンプル調製を行い,定量プロテオーム解析による発現差異解析,定量リン酸化プロテオーム解析による差異解析によって,(a) 細胞内全タンパク質発現動態,(b) 細胞内全タンパク質のリン酸化動態を明らかにした.これらの結果を統合して,発現変動分子群を統計学的抽出およびデータベース化し,発現変動分子群,およびリン酸化修飾変動分子群を分子ネットワーク解析ソフトIPAによって解析した.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
胆道がん細胞株7種類において,非常に特異性の高い競合阻害薬JPH203の濃度依存的な抗腫瘍作用をWST assay により評価することにより,有意な抗腫瘍効果を示す細胞株を選出できた. この情報をもとに,胆道がん4細胞株KKU-055, KKU-100, KKU-213, HuCCT1 について定量プロテオーム解析,定量リン酸化プロテオーム解析を実施した.結果,LAT1阻害薬の添加の有無のそれぞれの条件で24 時間処理した細胞サンプルにおいて,LAT1阻害による細胞内タンパク質リン酸化変動および発現タンパク質変動を網羅的に明らかにすることができた. これらの結果を統合して,発現変動分子群の統計学的抽出およびデータベース化を行った.統計学的に有意な発現変動分子群,およびリン酸化修飾変動分子群を分子ネットワーク解析ソフトによって解析した結果,タンパク質リン酸化ネットワークを含む様々な生物学的経路において,LAT1阻害による変動が明らかにできた.また,細胞株間においていくつもの共通した経路が発見され,それら経路がLAT1阻害による細胞増殖抑制に関係していることが示唆された.
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Strategy for Future Research Activity |
LAT1阻害剤処理した4種類の胆道がん細胞株に対して,横断的に実施した定量リン酸化プロテオーム解析・プロテオーム解析によって,LAT1阻害により変動する生物学的経路が明らかとなった.そこで今後は,特に重要と考えられる細胞間で共通して変動した経路について,LAT1阻害による細胞増殖抑制との関係を調査する.その結果,予想された細胞増殖抑制関係経路に対しての検証は,特異的阻害剤・siRNAによるノックダウン等で調べることで,治療標的候補分子としての臨床応用の可能性の検討を行う. また,本年度では胆道がん細胞株を対象としたが,それ以外のがん由来の細胞においても同様の解析を行うことで,LAT1阻害に伴う統計学的に有意な発現変動分子群,およびリン酸化修飾変動分子群のデータベースを拡充する.これによって,各がん種に特異的・共通のLAT1阻害依存的経路が明らかにされ,LAT1を標的とした各がん種の治療法に新たな方向性を提示することが期待できる. 本年度では24時間という比較的長時間でのLAT1阻害処理による影響を調べたが,今後はさらに,時間依存的な変化についても定量プロテオーム解析,定量リン酸化プロテオーム解析を行うことで,24時間ではフィードバック等で見えないLAT1下流経路についてさらに詳細な情報を得る.
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Causes of Carryover |
「物品費」は交付申請書よりも本年はわずかに少なくなった。また、コロナ禍の影響から旅費も少なくなった。結果的に、予算残額が生じた。これは主に、次年度に使用する物品費に充てる予定である。
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