2020 Fiscal Year Research-status Report
大腸癌における転写因子KLF5蛋白複合体の機能解明と創薬応用
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19K16777
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Research Institution | Jichi Medical University |
Principal Investigator |
辻 賢太郎 自治医科大学, 医学部, 臨床助教 (00835712)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 大腸癌 / KLF5 |
Outline of Annual Research Achievements |
切除不能な進行大腸癌の予後は不良であり、高い有効性と安全性を持つ新規薬剤の開発が望まれる。KLFファミリーは個体発生や心血管疾患、癌などの多彩な病態に関与する転写因子群である。その一つであるKLF5は腸上皮の陰窩底部優位に発現しており、正常腸上皮幹細胞の維持・増殖に加え、Wntシグナル系のメディエーターとして腸上皮幹細胞からの腫瘍形成にも重要な役割を持つ。変異活性型β-Catenin誘導による大腸癌モデルマウスの腸上皮幹細胞でKLF5をノックアウトすると腫瘍形成が抑制されることも既に見出されており、KLF5は進行大腸癌の新たな治療標的として期待される。 我々はこれまでの研究でKLF5の蛋白間相互作用を阻害すると予想される低分子化合物の創薬を試み、この化合物が正常細胞を傷害することなく大腸癌細胞の増殖を抑制することを見出した。さらにヒト大腸癌細胞株を移植したXenograftモデルにおいて明らかな有害事象なく癌の増殖抑制効果を示すことも確認している。 しかし、本化合物の癌選択的な増殖抑制効果の詳細な分子作用機構は明らかでない。本化合物はKLF5蛋白複合体を修飾するものと予想されるが、生理的状態と病的状態それぞれにおけるKLF5の蛋白間相互作用あるいは蛋白核酸相互作用の全体像は十分に解明されていない。 本研究では、FLAG-HAダブルタグ融合KLF5蛋白を恒常的に発現する遺伝子改変マウスを用いて、正常腸組織と腫瘍組織それぞれにおけるKLF5蛋白複合体解析を行う。本年度はCreERT2-loxPシステムにより腸上皮選択的に変異活性型β-Cateninを誘導する腫瘍形成マウスを作出し、タモキシフェン投与により腸腫瘍が形成されることを確認した。現在腸腫瘍と正常腸組織それぞれに由来する蛋白抽出物で抗FLAG抗体と抗HA抗体による2回免疫沈降を行い、KLF5蛋白複合体の精製を進めている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本年度はCreERT2-loxPシステムにより腸上皮選択的に変異活性型β-Cateninを誘導する腫瘍形成マウスの作出に成功し、タモキシフェン腹腔内投与により実際に腸組織に腫瘍が形成されることを確認することができた。一方で、免疫沈降に供するための十分なサンプル量の確保および腸組織におけるFLAG-HAダブルタグ融合KLF5蛋白の発現を確認するための条件検討に想定以上の時間を要し、腸腫瘍組織由来の免疫沈降産物の質量分析まで本年度中に実施することができなかった。
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Strategy for Future Research Activity |
腸腫瘍組織由来蛋白抽出物を用いた質量分析とクロマチン免疫沈降シークエンスを行い、正常組織と腫瘍組織との間でKLF5蛋白複合体の構成分子や転写調節領域がどのように変動するかを解析する。これらの解析を踏まえて大腸癌の発癌や増殖に関わる新規の分子経路を探索する。
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Causes of Carryover |
当初支出予定していた物品費やその他の経費の一部を別の財源で賄うことができたため、当該年度使用経費に余剰が生じた。余剰分は主として質量分析やクロマチン免疫沈降シークエンスおよびそれらのデータ解析に使用する予定である。
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