2020 Fiscal Year Research-status Report
p53PAD7傍分泌とHippoシグナル経路によるがん抑制機構の解明
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19K16789
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Research Institution | Tokyo University of Science |
Principal Investigator |
滝川 雅大 東京理科大学, 理工学部応用生物科学科, 助教 (80807834)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | がん抑制遺伝子 / Hippoシグナル経路 / 分泌性タンパク質 / p53 |
Outline of Annual Research Achievements |
代表的ながん抑制遺伝子p53は転写因子としての働きがよく知られており、p53PAD7はその標的遺伝子の一つである。胃がんや乳がんの一部でp53PAD7遺伝子のプロモーター領域が高度にメチル化されていることから、p53PAD7はがん悪性化に関連していることが示唆されている。しかしながらその詳細な働きについてはほとんど解明されていない。本研究の目的は、p53PAD7の分子的な働きを明らかにすることと、がん悪性化との関連を個体レベルで明らかにすることにある。本研究によってp53PAD7の分子的なメカニズムと、がん悪性化との関連が明らかになれば、シグナル伝達経路に関連する新規の分子標的薬の開発につながる可能性があり、臨床応用の基盤的知見が得られることが期待できる。 これまでの解析から、細胞内で発現上昇したp53PAD7タンパク質は細胞外へ分泌される性質があることが明らかになった。p53PAD7は傍分泌(Paracrine)されるというユニークな性質を持つことから、同因子を介した腫瘍微小環境制御機構に焦点を当て研究を進めている。一方で、我々は質量分析法を応用したリガンド-受容体の新しい同定方法を開発している。同手法を用いてp53PAD7の受容体因子の探索を行い、複数のp53PAD7受容体候補の同定に成功してきた。その受容体候補の中から、細胞増殖を制御するHippoシグナル経路との関連が予想される受容体が発見された。受容体候補因子の発現量を抑制する実験を行い、p53PAD7に対する感受性の変化を検討したが、予想に反しp53PAD7への感受性に変化がないことが明らかとなった。しかしながらHippoシグナル経路に必須の遺伝子をノックダウンしたところ、p53PAD7による細胞への影響が顕著に阻害されたことから、Hippoシグナル経路との関連性が非常に高いことが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
分泌性タンパク質p53PAD7の性質を調べるために精製したリコンビナントタンパク質を作製し、がん細胞株に添加する実験を行っている。その結果、がん細胞株ではHippoシグナル経路に関連する遺伝子群の発現上昇が確認でき、YAP/TAZといったHippoシグナル経路の転写共役因子の核内移行が観察されたことからも、Hippo経路への関連がより確実になったと考えられる。 さらに、マウスを用いた移植実験の結果からp53PAD7によるがん抑制的な結果が得られ、当初予想していた仮説を支持する結果が得られているため。
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Strategy for Future Research Activity |
一部の胃がんや乳がんでp53PAD7の発現量が抑制されていることからがん抑制的な働きが類推されているが、分子的な実態は全く明らかになっていない。今後はp53PAD7とその受容体を介して起こるシグナル伝達経路の変化を詳細に解析し、p53PAD7の分子的な機能を明らかにする。受容体候補の一部の発現量を抑制した実験を行ったが、p53PAD7への感受性に変化がなかったことから、複数の受容体がp53PAD7に反応し、細胞内にシグナルを伝達していることが予想される。研究実績の概要欄に記述した通り、Hippoシグナル経路に必須の遺伝子の発現抑制によってp53PAD7への感受性が阻害された。その結果を踏まえ、網羅的遺伝子解析結果から得られたデータを元に、細胞死や細胞増殖抑制に関連する遺伝子の発現抑制などによって、どのような影響が現れるのかを検討する。
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Causes of Carryover |
昨今の新型コロナウイルスによる社会情勢から、学会参加のための旅費がなくなったため。 リコンビナント蛋白質を大量に精製する実験に多くの資材を必要とするため、それらの実験に用いる。
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