2020 Fiscal Year Research-status Report
免疫抑制能を規定する遺伝子発現制御機構の解明とがん免疫療法への応用
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19K16818
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
平松 寛明 名古屋大学, 医学系研究科, 研究員 (70827253)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 部位特異的ChIP法 / dCas9 / sgRNA / 転写因子複合体 / プロモーター / エンハンサー |
Outline of Annual Research Achievements |
当該年度は、dead Cas9 (dCas9)と一本鎖guide RNA (sgRNA)を用いた部位特異的クロマチン免疫沈降 (ChIP)法の開発を行った。この手法が確立できれば、sgRNAを変更するだけで、マウス、ヒトといった種に縛られることなく、あらゆる細胞のあらゆる遺伝子のプロモーターやエンハンサーを解析の対象とすることができる。プロモーターやエンハンサーに結合しているタンパク質複合体の同定や、DNAの3次元構造の解析など、遺伝子発現制御機構の網羅的解析において極めて有効な手法である。抗体の品質にも依存しないため、これまで解析が困難であった転写因子複合体等のタンパク質間相互作用の解析にも応用可能である。先行論文のChIP seqやATAC seqのデータを基にしてsgRNAを設計することにより、その領域と相互作用しているDNAの領域を網羅的に同定することも可能である。 将来的には、腫瘍関連マクロファージ (TAM)のように遺伝子導入が難しい細胞を用いた実験に応用することを予定している。そこで、大腸菌発現系で作製したリコンビナントdCas9と人工合成したsgRNAを用いた方法の確立に取り組んでいる。必要なリコンビナントdCas9タンパク量、合成sgRNA量の問題があるため、条件検討はプラスミドを用いた実験系で行うことにした。昨年の名古屋大学への移動に伴い、成人T細胞白血病リンパ腫 (ATLL)の細胞株とChIP seqデータを利用できる環境が整った。そのため、ATLLの細胞株を用いて条件検討を行い、必要な試薬の量や細胞数等、sgRNAの設計等について検討を行っている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
新たな実験手法として、大腸菌発現系で作製したリコンビナントビオチン化dCas9と人工合成したsgRNAを、細胞を固定・ソニケーションして得られたゲノムDNA-タンパク質複合体と混合して、sgRNA依存的に免疫沈降する手法の確立を目指している。リコンビナントビオチン化dCas9タンパク質の大量精製に成功し、次の課題として、質量分析やChIP seqを行うための条件検討を行っている。 様々な条件で実験を行うには、リコンビナントタンパク質と合成RNAを用いた系では試薬量に問題があった。そこで、新たにビオチン化dCas9とsgRNAを共発現できるレンチウイルスベクター用プラスミドを作製した。 昨年の名古屋大学への移動に伴い、ATLLの細胞株と、ChIP seqデータを利用できる環境が整った。そこで、ATLLの細胞株にこのレンチウイルスベクターを用いた遺伝子導入を行い、安定発現細胞株を作製した。sgRNAは、既にエンハンサー領域と、結合するタンパク質が同定されているCCR4遺伝子領域に設計した。同定されているタンパク質は転写制御因子複合体の一部分であると考えられるので、本研究によって網羅的なタンパク質同定が期待できる。また、DNAの3次元構造に関しても新たな知見を得ることが期待できる。現在、ウェスタンブロッティング法やqRT-PCR法を用いた予備検討を行っている。
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Strategy for Future Research Activity |
ATLLの細胞株にビオチン化dCas9とsgRNAを共発現させた細胞株を用いて、CCR4遺伝子のエンハンサー、プロモーター領域を対象として条件検討を行いつつ、CCR4の発現制御に関する新たな知見を得ることを目標とする。 安定発現株を用いた実験では、特に、sgRNAの設計やネガティブコントロールsgRNA配列、質量分析、ChIP seqに用いる細胞数や試薬量等について最適な条件を確立することを目指す。 レンチウイルスベクターを用いて最適化された条件で、リコンビナントビオチン化dCas9と、人工合成したsgRNAを用いた方法においても同様の結果が得られるかどうかについて検討を行う。細胞の固定法や破砕法、ビオチン化dCas9/sgRNA/ゲノムDNA複合体を形成させる反応方法などが課題となると予想される。ビオチン化dCas9とsgRNAの安定発現株と比較しつつ、効率よくゲノムDNA-タンパク質複合体を免疫沈降できる条件の検討を行う。 細胞株を用いた実験で細胞数や試薬量等を最適化できたら、TAMやヒトPBMCを用いた実験を行う予定である。ヒトPBMCについてはレンチウイルスを用いた遺伝子導入も行えるため、ビオチン化dCas9とsgRNAを共発現させて条件検討を行うことも可能である。
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Causes of Carryover |
助成期間の途中に国立がん研究センターから名古屋大学に移動したため、当初計画に変更が生じた。しかしながら、当初の計画より汎用性が高く有用な手法を確立できる可能性が高まったため、より精緻に検討を行う必要があると判断した。助成金はそのための実験の実施や、学会参加等に使用予定である。
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