2019 Fiscal Year Research-status Report
メトホルミンと抗PD-1抗体併用療法の発展:多重蛍光組織染色で解く腫瘍微小環境
Project/Area Number |
19K16864
|
Research Institution | Okayama University |
Principal Investigator |
工藤 生 岡山大学, 医歯薬学総合研究科, 助教 (40830378)
|
Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
|
Keywords | グルコース代謝競合 / GLUT1 / CD8TIL / メトホルミン / 抗PD-1抗体 / 併用療法 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は腫瘍微小環境中でのグルコース代謝競合の観点で、腫瘍浸潤CD8T細胞(CD8TIL)とがん細胞との関係性を調べた。4T1 乳癌細胞株をBALB/cマウスに皮内注射し、5~6日後からメトホルミンの自由飲水投与と、抗PD-1抗体の腹腔内投与による治療を開始した。治療開始後3日目に腫瘍を摘出し、組織ブロックおよび切片を作成し、免疫組織染色法による解析を行った。 その結果、GLUT1の発現は腫瘍内でも多様性があり、発現量の高い領域と低い領域があることが分かった。そして未治療群のCD8TILは主にGLUT1発現の低い領域に局在が見られた。一方メトホルミンや抗PD-1抗体治療群では、未治療群に比べてGLUT1の発現量がより高い領域にもCD8TILの浸潤が多く見られた。併用治療群ではそのようなCD8TILの数の増加がさらに顕著に見られた。この結果から、メトホルミンや抗PD-1抗体治療によって腫瘍微小環境中でのグルコース競合がCD8TIL優位になり、CD8TILが活性化することで腫瘍退縮へとつながっていることが示唆された。 また、細胞増殖マーカーKi67の発現にも着目した。がん細胞でのGLUT1の発現とKi67の発現との関係性を調べたところ、意外なことに、GLUT1highの領域より、GLUT1lowの領域の方がKi67の発現量が高い傾向にあることが見いだされた。すなわちGLUT1の発現量とKi67の発現量は逆相関する傾向があり、これまでの知見とは隔たりがあるように思えた。そこでGLUT1の発現を誘導する分子としても知られる、低酸素マーカーHIF-1αなどの影響を考えた。低酸素領域を作り出している腫瘍血管の近傍では、栄養や酸素運搬が不十分で、HIF-1αの誘導によりGLUT1の発現上昇を誘導するが、増殖するのに十分な栄養や酸素を受け取ることができていないのではないかと推察される。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
現在までの進捗状況はやや遅れぎみである。我々の研究室では、多重蛍光組織染色法のノウハウが乏しかったため、様々なマーカー分子に対して、きれいな染色像を得られるような実験条件や、適切な抗体を選別するのに難航した。さらにそれぞれを組み合わせたときも、単染色では見られなかったような非特異的染色が増えるケースもあり、様々な工夫を要した。マンパワーも不足気味な状況が続いているため、やや遅れていると判断した。しかし現在は、当初予定していたマーカー分子の大半が使えるくらいの経験が蓄積され、技術的な下地は整ってきているので、今後は遅れを取り戻す勢いで進めることができると考えている。
|
Strategy for Future Research Activity |
GLUT1の発現量とCD8TILの局在の関係性を軸にして、CD8TILの活性化や腫瘍血管との位置関係、腫瘍血管の正常化、低酸素領域との位置関係を組み合わせ、これらが治療前後でどのように変化するのか解析していく。またこれらの治療効果の作用機序がCD8T細胞依存的であるかどうかを、CD8T細胞除去抗体投与の実験系で進めていく。
|